国際原子力機関(IAEA)の天野之弥事務局長(72)が急死されたため、IAEAのウィーン本部を訪ね、職員の様子などを取材する予定だったが、別の取材テーマもあって25日になってIAEAを訪問した。ウィーンの国連にはIAEAだけではなく、国連工業開発機関(UNIDO)や国連薬物犯罪事務局(UNODC)などの専門機関が入っているが、IAEAは最大の職員数を抱える花形の国連機関だ。
▲亡くなった天野氏への記帳台(2019年7月25日、IAEA内で撮影)
中央入口(ゲート1)から入ると、広場に加盟国の国旗が掲揚されているのが目に入る。IAEAの旗は半旗だった。無風だったこともあって、旗は沈んでいた。主人公の突然の死にショックを受けているようにさえ感じた。AビルからCビルに通じるフロアーには天野氏の写真と記帳簿が置かれた記帳台がある。
IAEAでは25日午前、特別理事会がCビルの会議室で開催された。主要議題は急死した天野氏の後継者選出だ。理事会(理事国35カ国)は天野氏の主任コーディネーター、フェルダ氏を事務局長代理に任命し、早急に正式の後継者を選出することになった。なお、理事国代表は天野氏の10年間余りの歩みに感謝する一方、その党派性のない言動を評価する声が聞かれたという。
任期中に事務局長が急死した前例がない。9月には理事会と年次総会が開催される。イラン核合意が破棄された状況下で、IAEAとイランの間で締結した包括的共同行動計画(JCPOA)の行方が懸念されている。北朝鮮の核問題もある。早急に次期事務局長を選出しなければならないが、欧州では9月初めまで外交官も夏季休暇に入る。
理事会が開催されたCビルの会議室の前には日本人記者たちが殺到していた。欧米のメディアの姿は通信社記者以外にほとんどいない。通信社のニュースでフォローできるからだ。日本記者の場合は天野氏への追悼という意味合いがあったのだろう。
国連で知人と話していると、「天野氏が殺されたという情報が流れている」というのだ。IAEA事務局長を殺す者がいるだろうか。知人は「天野氏を嫌っていた人物はいた」という。当方は知人が冗談を言っているのではないか、と思った。
ここでは「殺人説」について詳細には書けない。知人の情報には証拠らしい情報がないからだ。天野氏が急死したこと、その死因が明らかではないことから「天野氏殺人説」という憶測が飛び出してきたのだろう。
IAEAには過去、病死する職員や退職後、数年で亡くなるケースが他の国連機関より多いと聞いている。IAEAの場合、核エネルギーの平和利用の促進を目標とした専門機関だから、核関連物質に接する機会は多いが、それに該当するのはあくまでも査察官だろう。北朝鮮の寧辺核関連施設で査察活動をしていたIAEAの査察官が放射能を被爆した。同査察官は数年前に退職したが、彼は今でも定期的に診察を受けている。
奇妙なことは、天野氏は自身の病気が絶対に外に漏れないように徹底した情報管理をしていたことだ。当方が2,3のIAEA職員に聞いても「事務局長の病気については何も知らない」、「口外しないように厳しく言われている」という返事しか戻ってこなかった。天野氏が亡くなった後もその状況は変わらない。
理事会に参加したIAEA高官に25日、「天野氏の急死に対して、あなたのコメントを聞かせてほしい」と質問したが、高官は「話せない」と言って逃げるように去った。天野氏の死因について、厳格な口止めがされているのだ。
当方は昨年9月のコラム欄で「天野氏は末期のガンだ」と語った国連関係者のコメントを報じた。天野氏は昨年9月の第62回年次総会に欠席したが、加盟国向けにビデオ・メッセージを送っていた。当時、天野氏は治療のために海外にいるといわれていた。オーストリアのウィーンには欧州最高の総合病院がある。治療は可能だ。それをわざわざ海外で治療するというのも不自然だった。
昨年11月の理事会後の記者会見では天野氏は少しやせ、声も擦れていた。今年3月の理事会後の記者会見では少し回復した感じがした。その天野氏の病気が今年6月以降、急速に悪化したのだろうか。
天野氏は今月18日に死去、IAEA広報部は今月22日、事務局長の死を公表したが、その死因については言及しなかった。もちろん、天野氏の家族の願いがあったのかもしれないが、少々異常なまでの情報管理だ。
「天野氏殺人説」はフェイクか、恣意的な情報操作の可能性が高いが、その情報を一蹴できないのは、死因が公表されていないこと、イランの核問題が再び先鋭化してきた時期であり、天野氏がイランの核報告書ではイランが核合意を順守していると繰り返し報告し、イランの核兵器開発容疑を主張するトランプ米政権にとっては好ましくない人物と受け取られてきたことなどがあるからだろう。
ただし、憶測の余地はある。天野氏が執拗に自身の病を隠したのは、同氏の急病が何らかの放射能の影響によるものだったからではないか。欧州では反原発の声が強い。核エネルギーの平和利用、原発の安全強化とその促進を推進するIAEA事務局トップが(原発を含む核関連施設からの)放射能が主因で発病したことが判明すれば、IAEAとしては極めて不都合だ。それゆえに、天野氏は自身の病気を隠そうとしたのではないか。天野氏の急病が第3者による恣意的な画策によるものか、単なる事故による結果かは、分からない。これは当方の一方的な憶測に過ぎない。
▲亡くなった天野氏への記帳台(2019年7月25日、IAEA内で撮影)
中央入口(ゲート1)から入ると、広場に加盟国の国旗が掲揚されているのが目に入る。IAEAの旗は半旗だった。無風だったこともあって、旗は沈んでいた。主人公の突然の死にショックを受けているようにさえ感じた。AビルからCビルに通じるフロアーには天野氏の写真と記帳簿が置かれた記帳台がある。
IAEAでは25日午前、特別理事会がCビルの会議室で開催された。主要議題は急死した天野氏の後継者選出だ。理事会(理事国35カ国)は天野氏の主任コーディネーター、フェルダ氏を事務局長代理に任命し、早急に正式の後継者を選出することになった。なお、理事国代表は天野氏の10年間余りの歩みに感謝する一方、その党派性のない言動を評価する声が聞かれたという。
任期中に事務局長が急死した前例がない。9月には理事会と年次総会が開催される。イラン核合意が破棄された状況下で、IAEAとイランの間で締結した包括的共同行動計画(JCPOA)の行方が懸念されている。北朝鮮の核問題もある。早急に次期事務局長を選出しなければならないが、欧州では9月初めまで外交官も夏季休暇に入る。
理事会が開催されたCビルの会議室の前には日本人記者たちが殺到していた。欧米のメディアの姿は通信社記者以外にほとんどいない。通信社のニュースでフォローできるからだ。日本記者の場合は天野氏への追悼という意味合いがあったのだろう。
国連で知人と話していると、「天野氏が殺されたという情報が流れている」というのだ。IAEA事務局長を殺す者がいるだろうか。知人は「天野氏を嫌っていた人物はいた」という。当方は知人が冗談を言っているのではないか、と思った。
ここでは「殺人説」について詳細には書けない。知人の情報には証拠らしい情報がないからだ。天野氏が急死したこと、その死因が明らかではないことから「天野氏殺人説」という憶測が飛び出してきたのだろう。
IAEAには過去、病死する職員や退職後、数年で亡くなるケースが他の国連機関より多いと聞いている。IAEAの場合、核エネルギーの平和利用の促進を目標とした専門機関だから、核関連物質に接する機会は多いが、それに該当するのはあくまでも査察官だろう。北朝鮮の寧辺核関連施設で査察活動をしていたIAEAの査察官が放射能を被爆した。同査察官は数年前に退職したが、彼は今でも定期的に診察を受けている。
奇妙なことは、天野氏は自身の病気が絶対に外に漏れないように徹底した情報管理をしていたことだ。当方が2,3のIAEA職員に聞いても「事務局長の病気については何も知らない」、「口外しないように厳しく言われている」という返事しか戻ってこなかった。天野氏が亡くなった後もその状況は変わらない。
理事会に参加したIAEA高官に25日、「天野氏の急死に対して、あなたのコメントを聞かせてほしい」と質問したが、高官は「話せない」と言って逃げるように去った。天野氏の死因について、厳格な口止めがされているのだ。
当方は昨年9月のコラム欄で「天野氏は末期のガンだ」と語った国連関係者のコメントを報じた。天野氏は昨年9月の第62回年次総会に欠席したが、加盟国向けにビデオ・メッセージを送っていた。当時、天野氏は治療のために海外にいるといわれていた。オーストリアのウィーンには欧州最高の総合病院がある。治療は可能だ。それをわざわざ海外で治療するというのも不自然だった。
昨年11月の理事会後の記者会見では天野氏は少しやせ、声も擦れていた。今年3月の理事会後の記者会見では少し回復した感じがした。その天野氏の病気が今年6月以降、急速に悪化したのだろうか。
天野氏は今月18日に死去、IAEA広報部は今月22日、事務局長の死を公表したが、その死因については言及しなかった。もちろん、天野氏の家族の願いがあったのかもしれないが、少々異常なまでの情報管理だ。
「天野氏殺人説」はフェイクか、恣意的な情報操作の可能性が高いが、その情報を一蹴できないのは、死因が公表されていないこと、イランの核問題が再び先鋭化してきた時期であり、天野氏がイランの核報告書ではイランが核合意を順守していると繰り返し報告し、イランの核兵器開発容疑を主張するトランプ米政権にとっては好ましくない人物と受け取られてきたことなどがあるからだろう。
ただし、憶測の余地はある。天野氏が執拗に自身の病を隠したのは、同氏の急病が何らかの放射能の影響によるものだったからではないか。欧州では反原発の声が強い。核エネルギーの平和利用、原発の安全強化とその促進を推進するIAEA事務局トップが(原発を含む核関連施設からの)放射能が主因で発病したことが判明すれば、IAEAとしては極めて不都合だ。それゆえに、天野氏は自身の病気を隠そうとしたのではないか。天野氏の急病が第3者による恣意的な画策によるものか、単なる事故による結果かは、分からない。これは当方の一方的な憶測に過ぎない。