ドイツ中部ヘッセン州カッセル県で起きたワルター・リュブケ県知事殺人事件はドイツ国民に大きなショックを与えている。リュブケ県知事(65)は今月2日未明、自宅で頭を撃たれ倒れているのを発見され、収容先の病院で死去した。同県知事はドイツ与党「キリスト教民主同盟」(CDU)に所属、難民収容政策では難民擁護の政治家として知られてきた。事件は同県知事の難民擁護に関する発言がきっかけとなったと受け取られている。
▲極右テロの犠牲者となったワルター・リュブケ氏(独週刊誌シュピーゲル電子版から)
ドイツのゼーホーファー内相は26日、連邦議会内務委員会で、「リュブケ氏殺人事件の容疑者、シュテファン・エルンスト(45)は犯行を認めている。事件は単独犯行だった。ただし、犯行動機がまだ完全には解明されていない」と報告している。
独メディアによると、45歳の容疑者は前科があり、少なくとも過去、極右過激派グループとの接触が確認されているという。具体的には、今年3月23日、ザクセン州で開催された極右過激派の政治イベントに参加し、そこでネオ・ナチグループ「Combat18」と「Brigade 8」のメンバーと写真を撮っている。リュブケ県知事殺人事件に関連して、27日までに2人が殺人幇助容疑などで逮捕された。
独週刊誌シュピーゲル電子版(26日)によると、犯人はリュブケ県知事の2015年10月14日の集会での発言が犯行動機となったという。難民収容所の設置案を市民に報告する集会で同県知事はその必要性を訴え、「(困窮下にある難民を救済することは)ドイツ国民の価値観だ。その価値観と共有できない国民はいつでもドイツから出ていける」と述べたという。
同集会での県知事の発言がユーチューブなどで流されると、極右派グループから激しい批判、中傷が飛び出し、県知事を脅迫するメールも届いたという。同集会には「旧ドイツ帝国公民」運動( Reichsburgerbewegung)メンバーや反難民・外国人排斥運動のペギーダ(Pegida)のメンバーたちも参加していた。ドイツ・メディアによると、同県知事は「旧ドイツ帝国公民」運動から脅迫を受けていたという。
「旧ドイツ帝国公民」はドイツ連邦共和国や現行の「基本法」(憲法に相当)を認めない。だから、政治家や国家公務員の権限を認知しない。「旧ドイツ帝国公民」運動といっても、統一された定義はなく、さまざまな政治信条が入り混じっている。
ドイツ連邦刑事局(BKA)によると、「旧ドイツ帝国公民」運動の2017年の犯罪件数は、政治的動機に基づく身体傷害、扇動、放火、脅迫など771件、その内、619件は実行し、152件は未遂だった。116件は国家公務員への犯罪だ。314件は同国南部バイエルン州で発生した。
シュピーゲル誌によると、ドイツでは約1万6500人の自称「旧ドイツ帝国公民」がいる。その内、約900人は極右過激派だ。約1100人は合法的に武器を所持している。ドイツ日刊紙フランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥングのコラムニストは「旧ドイツ帝国公民」運動を「ファンタジー帝国」と呼んでいる。彼らの共通点は、“ドイツは過去にだけ存在する”と考えていることだ(「『ファンタシー帝国』に住む人々」2018年1月31日参考)。
難民歓迎政策を推進したメルケル首相はこれまでカッセルでの殺人事件に関しては、「事件が早急に解決されることを願う」とだけ述べている。一方、連邦議会の「同盟90/緑の党」「自由民主党」(FDP)、「ドイツのための選択肢」(AfD)と左翼党は内務特別委員会の設置を要求している。シュタインマイアー大統領も、「事件の全容解明が最優先される」と発言し、さらにインターネットでの憎悪メールなどの取り締まりの必要性を強調した。
ゼーホーファー内相は22日、「法治国家にもう少し罰則の強化が必要だ。極右過激主義は危険だ。イスラム教テロと『旧ドイツ帝国公民運動』を同列に置くべきだ。民主主義に敵対する者には国民に約束された基本法の保障をはく奪すべきだ」と主張、関係者と協議に入っていることを明らかにしている。
マース外相は、「今回の殺人事件は極右テロ組織NSU(国家社会主義地下組織)連続殺人事件を想起させる。第2次世界大戦から80年が経過するが、政治家が再び極右テロリストの犠牲となった」と強調、地球温暖化阻止の学生たちのデモ集会『未来のための金曜日』運動に倣って、『民主主義の木曜日運動』を始めるべきだ」と呼び掛けている。
なお、ドイツ連邦憲法擁護庁の「2018年年次報告書」によると、ドイツには2万4100人の極右過激主義者がいる。極右過激主義を動機とした犯行件数は昨年2万431件で前年比で微減したが、暴力犯行やプロパガンダ罪の件数は増えている。
▲極右テロの犠牲者となったワルター・リュブケ氏(独週刊誌シュピーゲル電子版から)
ドイツのゼーホーファー内相は26日、連邦議会内務委員会で、「リュブケ氏殺人事件の容疑者、シュテファン・エルンスト(45)は犯行を認めている。事件は単独犯行だった。ただし、犯行動機がまだ完全には解明されていない」と報告している。
独メディアによると、45歳の容疑者は前科があり、少なくとも過去、極右過激派グループとの接触が確認されているという。具体的には、今年3月23日、ザクセン州で開催された極右過激派の政治イベントに参加し、そこでネオ・ナチグループ「Combat18」と「Brigade 8」のメンバーと写真を撮っている。リュブケ県知事殺人事件に関連して、27日までに2人が殺人幇助容疑などで逮捕された。
独週刊誌シュピーゲル電子版(26日)によると、犯人はリュブケ県知事の2015年10月14日の集会での発言が犯行動機となったという。難民収容所の設置案を市民に報告する集会で同県知事はその必要性を訴え、「(困窮下にある難民を救済することは)ドイツ国民の価値観だ。その価値観と共有できない国民はいつでもドイツから出ていける」と述べたという。
同集会での県知事の発言がユーチューブなどで流されると、極右派グループから激しい批判、中傷が飛び出し、県知事を脅迫するメールも届いたという。同集会には「旧ドイツ帝国公民」運動( Reichsburgerbewegung)メンバーや反難民・外国人排斥運動のペギーダ(Pegida)のメンバーたちも参加していた。ドイツ・メディアによると、同県知事は「旧ドイツ帝国公民」運動から脅迫を受けていたという。
「旧ドイツ帝国公民」はドイツ連邦共和国や現行の「基本法」(憲法に相当)を認めない。だから、政治家や国家公務員の権限を認知しない。「旧ドイツ帝国公民」運動といっても、統一された定義はなく、さまざまな政治信条が入り混じっている。
ドイツ連邦刑事局(BKA)によると、「旧ドイツ帝国公民」運動の2017年の犯罪件数は、政治的動機に基づく身体傷害、扇動、放火、脅迫など771件、その内、619件は実行し、152件は未遂だった。116件は国家公務員への犯罪だ。314件は同国南部バイエルン州で発生した。
シュピーゲル誌によると、ドイツでは約1万6500人の自称「旧ドイツ帝国公民」がいる。その内、約900人は極右過激派だ。約1100人は合法的に武器を所持している。ドイツ日刊紙フランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥングのコラムニストは「旧ドイツ帝国公民」運動を「ファンタジー帝国」と呼んでいる。彼らの共通点は、“ドイツは過去にだけ存在する”と考えていることだ(「『ファンタシー帝国』に住む人々」2018年1月31日参考)。
難民歓迎政策を推進したメルケル首相はこれまでカッセルでの殺人事件に関しては、「事件が早急に解決されることを願う」とだけ述べている。一方、連邦議会の「同盟90/緑の党」「自由民主党」(FDP)、「ドイツのための選択肢」(AfD)と左翼党は内務特別委員会の設置を要求している。シュタインマイアー大統領も、「事件の全容解明が最優先される」と発言し、さらにインターネットでの憎悪メールなどの取り締まりの必要性を強調した。
ゼーホーファー内相は22日、「法治国家にもう少し罰則の強化が必要だ。極右過激主義は危険だ。イスラム教テロと『旧ドイツ帝国公民運動』を同列に置くべきだ。民主主義に敵対する者には国民に約束された基本法の保障をはく奪すべきだ」と主張、関係者と協議に入っていることを明らかにしている。
マース外相は、「今回の殺人事件は極右テロ組織NSU(国家社会主義地下組織)連続殺人事件を想起させる。第2次世界大戦から80年が経過するが、政治家が再び極右テロリストの犠牲となった」と強調、地球温暖化阻止の学生たちのデモ集会『未来のための金曜日』運動に倣って、『民主主義の木曜日運動』を始めるべきだ」と呼び掛けている。
なお、ドイツ連邦憲法擁護庁の「2018年年次報告書」によると、ドイツには2万4100人の極右過激主義者がいる。極右過激主義を動機とした犯行件数は昨年2万431件で前年比で微減したが、暴力犯行やプロパガンダ罪の件数は増えている。