27日は朝鮮戦争の休戦協定締結から65年目を迎えた。北朝鮮は同日、朝鮮戦争(1950〜53年)で死亡した米兵の遺骨(約55柱)を返還した。シンガポールの米朝首脳会談でトランプ大統領と金正恩朝鮮労働党委員長の間で合意していた内容だ。北側の「信頼醸成」への一歩として評価されている。

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▲北の非核化交渉の最前線にたつマイク・ポンぺオ米国務長官(米国務省公式サイトから)

 それに先立ち、北朝鮮北西部・東倉里のミサイル実験場を廃棄する動きが見られるというニュースが流れた。これも北側の「信頼醸成」への一歩と好意的に受け取られた。米朝首脳会談前には、北側は同国北東部・豊渓里の核実験場の閉鎖を実施し、首脳会談開催への「信頼醸成」の一環として受け取られ、北で拘束中の3人の米国人を釈放した。これまた「信頼醸成」から出た北側の善意と解釈された。

 北側は、重要なイベントの前後には必ずと言っていいほど通称「信頼醸成」と受け取られる行動に乗り出す。なぜ北側は「信頼醸成」に拘るのか。「米朝間の長い冷戦関係、敵対関係を想起すれば、その理由は分かる」という意見もある。本当にそうだろうか。朝鮮半島の現代史をちょっと振り返るだけでも、約束の放棄、隠蔽工作は北側が得意としてきた戦略だ。その北側の瀬戸際外交と「信頼醸成」はパッケージではないか、という疑いが払しょくできない。

 南北間の融和政策を進める韓国の文在寅大統領は25日、「北朝鮮の非核化に向けて良い兆候だ」と早速評価したが、日頃、大統領府の外交部無視のやり方に不満を感じている康京和外相は26日、「北のミサイル実験場の廃棄の動きは意味ある措置だが、検証が必要だ」と、極めて冷静に受け取っている。

 韓国の融和政策は最終的には南北再統一を目指すが、米朝間の接近は北の非核化が目的だ。シンガポールで6月12日に開催された米朝首脳会談はそのために開かれた。単なる米朝間の関係改善のためではない。ひょっとしたら、関係改善は非核化が実現された暁には実現するかもしれないが、逆ではない。非核化も実現されていない時に米朝両国関係が北側の度重なる「信頼醸成」の結果、改善されたとしても、その土台は非常に脆弱なものに終わるだけだ。

 予想されたことだが、トランプ大統領は北側の信頼醸成の度に好意的に受け取っている。米兵の遺骨返還に「米兵家族にとって素晴らしい時になる」と述べ、友達になったばかりの金正恩氏に感謝の意を表明したばかりだ。

 北の非核化を願う日本にとって幸いな点は、米朝交渉の最前線にいるポンぺオ国務長官が25日、上院外交委員会の公聴会で「北朝鮮が現在も核物質の生産を続けている」と明らかにし、北の「信頼醸成」攻勢にもかかわらず、冷静に北の非核化の動向をフォローしていることだ。

 同国務長官によれば、「北朝鮮は、北西部・寧辺に使用済み核燃料再処理施設とウラン濃縮施設を保有し、核兵器に使われるプルトニウムとウランを生産している。平壌近郊にも秘密ウラン濃縮施設(カンソン)が存在する」(時事通信)というのだ。

 繰返すが、北側の狙いは、「信頼醸成」に基づいた米朝関係の改善、そして「終戦宣言」の実現を通じて対北制裁の早期解除を獲得する一方、非核化はあくまでもその後のテーマとすることにある。

 北側が本当に「信頼醸成」に拘るのならば、自国の核関連施設に関する冒頭申告書を提示することだ。どこに核施設があり、何基の核兵器を保有しているかなどの非核化への基本的情報を早急に明らかにすることだ。いくらさまざまな「信頼醸成」手段を繰り出したとしても意味がない。北の「信頼醸成」が最終的には“信頼破壊”に終わることを余りにも多く目撃してきたからだ。

 国際社会は北側が非核化周辺をうろつくのではなく、実際それに乗り出すことを期待している。気になる点は、北側指導部で非核化についてまだコンセンサスがなく、一部強い反対があるという情報が流れていることだ。北の非核化のソフトランディングは少し時間がかかったとしても必ず実現されなければならない。