トランプ米大統領は頻繁にツイッターで発信することで有名だ。そのテキストが発信されると、メディアで即報道され、関係者にさまざまな反響を与える。その発信先が友邦国だけに限られず、独裁国家・北朝鮮の金正恩労働党委員長宛てにも発信するから、メディア関係者もトランプ氏のツイッターを無視できないばかりか、フォローしていないとトランプ氏の政治活動を正しく理解できない。

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▲第45代米大統領のドナルド・トランプ氏(米ホワイトハウス公式HPから)

 トランプ大統領はヘルシンキの米ロ首脳会談(7月16日)でロシアの情報を米情報機関のそれより信頼性があると受け取られる発言をし、与野党から一斉に批判されたばかりだ。トランプ氏はその直後、ホワイトハウスから「2016年の米大統領選への干渉について、「『ロシアではない理由が分からない』とすべきところを『ロシアである理由が分からない』と言ってしまった。私は米情報機関の情報をロシアのそれよりもちろん信頼している」と弁明している。すなわち、一つの否定を入れずに発言したことから誤解が生じたというわけだ。言語学的にいえば、2重否定するところを一つの否定を言い忘れたということになる。

 トランプ氏の説明に基づいて言い直すとすれば、「私がロシアの情報を信頼しないように、米国情報機関のそれを信頼しないということはない」ということになる。少々、複雑なテキストで、最後まで慎重に聞かないと、テキストの2つの not が聞き取れない、といった状況が考えられる。トランプ氏にとって不幸だったが、その2重否定の文の一つの“not”がヘルシンキのプーチン大統領との共同記者会見で欠けてしまったのだ。

 そのトランプ氏が22日、イランのハッサン・ロウハニ大統領へのツイッターで「米国を2度と脅迫するな。さもなければ史上まれにみるような結果に苦しむことになるぞ」とヤクザも顔負けするような脅迫文を発信したが、その脅迫箇所のテキストを“大文字”で発信した。狙いは、もちろん、ロウハニ大統領の注目を一層引くためだ。米大統領から脅迫されたロウハニ大統領は大文字で書かれた脅迫文を読んでどう感じただろうか。

 ことの発端は、普段は穏健なロウハニ氏がトランプ氏のイラン核合意離脱を批判し、米国が11月、対イラン制裁を実施し、イランの原油輸出を止めるならば、軍事対応も辞さないといった内容の強硬発言をしたからだ。普段から激怒しやすいトランプ氏は早速、ツイッターでその脅しに大文字で返答したというわけだ。

 重要な政治行事(ここでは米ロ首脳会談)で一つの否定を忘れ、その発言内容が180度逆にミスリードされた米大統領が過去にいただろうか。敵国の大統領に脅迫文を大文字で発信した米大統領がいただろうか。トランプ氏は文字通り、希少な大統領であり、ある意味で憎めない大統領だ。なぜならば、トランプ氏は忘れた not を直ぐに加えるし、大文字で脅迫することで「今度はミスリードされないぞ」という決意のほどが伺えるからだ。

 いずれにしても、トランプ氏への評価は、何を言ったかではなく、何を実行したかで下すべきだろう。トランプ氏の前任者、オバマ氏は前者で評価された米大統領だが、トランプ氏は明らかに後者の大統領だろう。何かを言うのは瞬間でも可能だが、実際に実行するためには時間がかかる。トランプ氏には忍耐をもってしばらく見守る以外にないだろう(「どちらのトランプ氏が本物?」2017年5月27日参考)。

 願わくは、トランプ氏の側近が大統領の発言の文法上の間違いを即修正させ、強弱をつけるべき時は、「大文字で書いてほしい」と適時に助言できれば、トランプ氏の発言やツイッターの内容にあたふたすることはないだろう。