4年前のサッカーワールドカップ(W杯)ブラジル大会の覇者ドイツ・チームが27日、Fグループ戦3戦目、対韓国戦で0−2で敗北し、決勝トーナメント(ベスト16)に進出できずにロシア大会からは早々と姿を消すことになった。ドイツ公営放送は同日夜7時のニュース番組で、「ドイツ代表の敗北」をトップで大きく報じた。

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▲グループ・ステージで敗退が決まったドイツ代表のレーブ監督(2018年6月27日、ドイツ公営ZDF中継から)

 当方はウィーン時間27日16時からテレビで試合を観戦した。ドイツは対韓国戦で勝利すれば決勝トーナメントに行けるが、引き分けの場合、スウェーデン対メキシコ戦の結果次第、敗北した場合、難しくなる。もちろん、ブックメッカーは前回王者ドイツが対韓国戦では断然有利と予想していたが、当方は試合前からなんとなく不安を感じていた。

 今回のドイツ・チームは4年前のチームとは違う。MFトーマス・ミュラー、DFマッツ・フンメルスなど主力選手は残っているが、チームの持つ勢いが全く感じられなかったからだ。W杯前の対オーストリア練習試合を1−2で敗北、W杯直前の対サウジアラビア戦では2−1でかろうじて勝利したが、昔のような攻撃力、チームワークが見られないのだ。

 対韓試合では開始10分までドイツは早めに点をとって試合を有利に進めていこうという思いがあったが、時間の経過と共に韓国側の攻撃も始まった。怪我のため今季ブンデスリーグの試合に出なかったGKマヌエル・ノイアーの試合勘が心配だった。ボールを受け損じる場面もあったが、致命的なミスはなかった。前半は0−0で終わった。

 問題は、同時間、他の競技場で試合中のスウェ―デン対メキシコ戦でスウェーデンがゴールを決め1点先行したことが伝わると、ドイツ側に動揺が見られた。もはや引き分けでは決勝トーナメントに進出できない。前回のW杯王者は「ひょっとしたらグループステージをクリアできないかもしれない」といった不安を覚えたはずだ。

 独公営放送で解説していた名GKだったオリバー・カーン氏は、「ドイツの選手たちは失敗することを恐れて不安を感じている」と述べていたのが印象的だった。結局、韓国代表はアディショナルタイム3分にキム・ヨングォン、6分にソン・フンミンがゴールを決め、ドイツの大会連覇の夢を打ち砕いた。最終的には、ドイツはFグループ最下位となった。

 ドイツ・メディアのW杯報道は凄い。選手の動向を報道する一方、選手の試合外の行動も逐次報じる。W杯前にトルコ系の2人の代表(MFメスト・エジルとMFイルカイ・ギュンドアン)がトルコのエルドアン大統領と会見し、ユニフォームをもって大統領と記念写真を撮ったことが報じられると、「ドイツ代表の一員として相応しくない行動だ」という批判が高まった。2人をロシア大会に連れて行くのはよくない、といった声すら出てきた。2人の代表選手は突然降って沸いた「政治とスポーツ」の間で当惑せざるを得なくなった。

 ちなみに、ロシア大会では22日、スイス対セルビア戦でコソボ系の2人のスイス代表(グラニット・シャカ、ジェルダン・シャキリ)がゴール後、アルバニア国旗のシンボル、「鷲」のポーズをしたことに対し、「スイス選手がアルバニアのシンボルをするのは……」という声がスイス国内で高まったばかりだ。ファンの中には「彼らはスイスのためにゴールしたのではなかったのだ」と失望する声も聞かれた。国際サッカー連盟(FIFA)の規律委員会は25日、「フェアプレーの原則に反し、スポーツにふさわしくない行動」としてシャカとシャキリに1万フランの罰金処分を科した。FIFAはピッチで選手の宗教的、政治的行動を禁止している。

 チャンピオンになるのは大変だが、それを防衛するのはもっと大変だ、とボクサーの世界でよく言われてきたが、サッカー界でも同様だ。ドイツが敗退したことで、W杯で前回王者が3大会連続、グループリーグで敗退したことになる(イタリアが2010年の南アフリカ大会、2014年ブラジル大会でスペインがそれぞれグループ戦で敗退)。

 ドイツ・チームは昨年、コンフェデレーションズ杯を勝利して文字通り世界の頂上に立ったが、ロシア大会でそのトップから真っ逆さまに落下したというわけだ。

 選手の技術的な点は専門家に委ねるとして、当方はドイツが今年に入り、その国の運勢が下がってきているのを感じる。第4次メルケル政権の発足が遅れ、一時は選挙のやり直しもといわれたほど、ドイツの政界は混乱を極めた。難民・移民の殺到が契機となって、ドイツ国民の結束が崩れ、政党間の連帯も失われてきている。その結果、ドイツの運勢は下がってきたわけだ。

 ドイツ・チームの敗北を「国の運勢」のせいにするのはお笑いだ、と言われるかもしれないが、個人に運勢があるように、民族、国家にも運勢がある。運勢が下がっている時、いくら頑張っても結果を出すのが大変だ。その時、忍耐して騒がず、運勢を揚げる努力を地道に継続する以外にない。

 当方は10年前、このコラム欄で運勢とスポーツのことを書いた。参考のためその一部を紹介する。

 「オーストリア・スイス共催で開催されたサッカーの欧州選手権(ユーロ2008)で44年ぶりにスペインが優勝したと思っていたら、プロのテニス大会の最高峰、ウィンブルドン選手権で6日、5連覇中のスイスのロジャー・フェデラーを破り、スペインのラファエル・ナダルが5セットに及ぶ激闘の末、初優勝した。スポーツ界を見ている限りでは、スペインは現在、運勢がある。

 スポーツ界では強い選手がいつも優勝するわけではないし、世界ランキングが上位の選手が常に勝つわけではない。選手個人や出身国の持つ、目に見えない『運勢』が勝敗を左右することが少なくない。ユーロ2008を放映していたドイツ国営放送解説者が『ここまで勝ち残ってきたチーム同士の試合の場合、勝敗を分けるのは最終的には Spielglueck(運勢)だ』と語っていた。その通りだ。選手、チーム、国の運勢だ。運勢が強い選手には強豪選手も勝てないし、トップ・チームも敗北を強いられる」(「スペインの『運勢』」2008年7月8日参考)。

 ヨアヒム・レーブ監督の契約は2022年までだ。同監督のもとドイツ・チームがこの厳しい期間を乗り越えるか、新しい指導者のもと再出発するかは目下不明だ。

 ドイツ国民は南米ブラジルの国民と同じようにサッカーを愛する。ドイツ・チームが新しく生まれ変わり、その素晴らしいプレイを再び見せてくれることを願うファンは多いだろう。