トランプ米大統領は6日、イスラエルの米大使館をテルアビブからエルサレムに移転すると発表、イスラエルの首都をエルサレムとする意向を表明したが、中東アラブ・イスラム諸国から強い反発の声が挙がっている。東エルサレムを将来のパレスチナ国の首都と考えているパレスチナ自治政府のマフムード・アッバス議長は、「米国の和平交渉には今後応じない」と宣言しているほどだ。

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▲国連緊急特別総会(2017年12月21日、国連公式サイトから)

 国連安保理事会で18日、米国の「エルサレム首都」認定の無効を明記した決議案が、米国の拒否権で否決されると、国連緊急特別総会が21日招集され、無効案が採決された。加盟国193カ国中、無効賛成が128カ国、反対9カ国、棄権35カ国、欠席21カ国だった。ただし、安保理決議とは異なり、総会決議には拘束力はない。

 それに先立ち、トランプ大統領は、「米国の案に反対する国には今後経済支援をしない。毎年、数百万、数千万ドルの支援を米国民の税金から支援を受けている国が米国の案を支持しないということは考えられない」と述べ、国連総会の採択で米国の「エルサレム首都」認定の無効に賛成した国は覚悟すべきだ、といった脅迫外交を展開した。その結果、棄権票、欠席票は予想外に増えたが、トランプ氏の脅迫外交の勝利とまでは言えない。無効案が勝利した事実には変わらないからだ。

 そこで国連総会の採決結果について少し詳細にみていく。米国の「エルサレム首都」認定を支持し、その無効案に反対した9カ国は、米国、イスラエルの2カ国の他、グアテマラ、ホンジュラス、マーシャル諸島、ミクロネシア、パラオ、ナウル、トーゴだ。ちなみに、中米グアテマラのモラレス大統領は24日、テルアビブにある同国大使館をエルサレムに移転すると発表している。

 一方、棄権国にはウガンダ、南スーダン、マラウイなどアフリカ諸国が多かったが、ポーランド、チェコ、オーストラリア、フィリピン、カナダ、アルゼンチン、メキシコなども含まれている。欠席国は総会の採決に外交官が姿を見せなかった加盟国だ。その数が21カ国だ。棄権国、欠席国は経済的に米国に依存している小国、ないしは伝統的な親米国家、米国の近隣諸国といえるだろう。

 トランプ大統領の“警告”にもかかわらず、無効賛成が過半数を占めることは事前に予想されていた。57カ国から構成されるイスラム協力機構(OIC)が賛成するだろうし、安保理でも15カ国中、反対票は米国一国だけだったからだ。

 例えば、安保理決議案を提出したエジプトは親米派であり、同時にOIC加盟国の一員だ。同国は米国から年間、13億ドルの軍事支援を受けている国だ。無効賛成票を投じれば、米国から支援が途絶えるのではないか、といった不安もあったはずだ。ただし、米国の対エジプト軍事支援は米議会で決定された法に基づくもので、トランプ氏が大統領令で停止することはできない。また、エジプトは対イスラム過激テロ戦線で重要な役割を果たしている国だ。トランプ氏も自身の警告をたやすく実行に移すことはできないだろう、というエジプト側の読みがあったはずだ(オーストリア日刊紙プレッセ12月22日参考)。エジプトは無効賛成に票を投じた。

 トランプ大統領は、クリスマスの前に外交勝利をして家族と共にクリスマス休日を楽しみたいと願っていただろうが、「エルサレム首都移転」案は世界で強い反対があるという事実を改めて噛み締める結果となったわけだ。

 米国が財政的に支援している国が米国の政策に反対することは許されない、と考えるトランプ氏の論理はある一面で筋が通っている。特に、経済の世界では資本力のある大企業が選択権を有する。資本の乏しい企業は大企業に吸収されていくか、消滅する。資本主義社会はワイルドだ。強い者(企業)が勝つ世界だ。

 しかし、外交の世界では経済界の支配原理が即活用できない。特に第2次世界大戦後、世界は帝国主義から民主主義世界に入り、大国は弱小国家に対等の権利を付与する傾向が強まってきた。国連193カ国の各国は小国でも大国・米国と同じ一票を持っている。ワイルドな資本主義社会の実業家出身トランプ氏は外交世界でその経済パワーを発揮し、相手を脅迫することはできないわけだ。これは、米保守派の間で聞かれる「国連無用論」の根拠ともなっている内容だ。