ローマ法王フランシスコは28日、実質27時間のエジプト訪問中だ。ここで同法王のカイロでの超教派活動を紹介するつもりはない。カイロ発から詳細な情報が流れてくるだろうからだ。今回、フランシスコ法王が近い将来、外遊できなくなるかもしれないという話を紹介する。80歳を迎えた南米出身のローマ法王の健康問題が表面化したからではない。バチカンが1964年以来、ローマ法王の空の足として利用してきた「アリタリア航空」がひょっとしたら破産してしまうかもしれないのだ。

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▲ローマ教皇搭乗機に敬礼するアメリカ軍兵士(White House photoより)

 バチカン放送は25日、ローマ法王のカイロ訪問に関連した記事で、「“法王の航空”が破産寸前」というタイトルの記事を発信した。それによると、1万2000人の社員を抱えるアリタリア航空会社の3分の2の社員が24日、会社再建案を拒否したというのだ。
 その案が受け入れられない場合、同航空の大手株主はもはや投資しないという。同国のパオロ・ジェンティローニ首相も「救援策を受け入れない限り、他の選択肢は破産しかない」とはっきりと航空会社に警告を発していた。同航空会社労組は「再建案の拒否は自殺行為だ」と憂慮しているほどだ。

 再建案はイタリア政府、航空会社労組、そして会社取締会が共同提案したもので、その主要ポイントは、賃金の平均8%カットと1600人の社員削減だ。「アリタリア航空」の2大株主、49%を出資しているアブダビの「エティハド航空」とイタリアの大手銀行「ウニクレディト 」は「同再建案を全社員が受理しない限り、20億ユーロの財政支援は出来ない」と既に表明してきた。
 欧州航空会社関係者は「1600人の社員の解雇阻止のために1万2000人の社員の職場を失うことは尋常でない」と、アリタリア航空の今回の決定に首を傾げている。

 ローマ南西部の国際空港フィウミチーノ空港(通称・レオナルド・ダ・ヴィンチ国際空港)をハブ空港とするアリタリア航空は過去何度も経営不振に陥ったことがある。一時、エールフランス‐KLMの買収案も出たことがあった。

 アリタリア航空は今日、86の都市に就航している。そしてローマ法王パウロ6世 (任期1963〜78年)が1964年、同航空を初めて利用して以来、53年間、ローマ法王の外遊を担当する“法王の航空”と呼ばれてきた。

 少し、話が飛ぶが、欧州連合(EU)加盟国で3番の経済国イタリアの国民経済は目下、かなり重症だ。「アリタリア航空」の経営危機はその一部に過ぎない。隣国オーストリアの代表紙プレッセは26日の1面トップで「イタリアの重症の原因は何か」というタイトルの記事を掲載していた。同紙は「イタリアの政治文化を刷新するために昨年12月、憲法改正を問う国民投票が実施されたが、国民は拒否した。アリタリア航空の現状はイタリア経済の惨めな状況の典型的な例だ」という。

 具体的には、イタリア経済はここにきて1%前後の経済成長を記録したが、OECD(経済協力開発機構)の報告書によれば、「危機が表面化して以来、国内総生産(GDP)は10%落ち、現在の国民経済は1997年の水準だ。その主因は恒常的な脆弱な生産性にある。行政システムが障害となり、規制が多く、斬新なイノベーションが生まれてこない。イタリアは久しく通貨リラ(2002年まで同国通貨)の切り下げを繰り返すことで均衡を保ち、それに慣れてしまった」という。競争力の欠如は失業者を増加させ、若者の失業率はほぼ40%だ。

 イタリアでは、労働組合がストを繰り返す一方、上院が改革案を阻止するケースが少なくなかった。そこで上院の権限を大幅に縮小する憲法改正を問う国民投票が昨年12月4日実施されたが、反対派が勝利。レンツィ首相(当時)が翌日、辞意を表明した経緯がある。

 「イタリア人はとことんまで行かないと改革しない。しかし、その段階になれば、考えられないほどラジカルな改革に乗り出す」(プレッセ紙)という。その時まで、「アリタリア航空」が存在しているか、誰も自信をもって答えることができない。