「パリ同時テロ」事件が起きて以来、テロ問題について考える時間が多く、他の問題を少々おろそかにしてきたと感じてきた。具体的には、ローマ・カトリック教会総本山、バチカン法王庁で8日、ローマ法王フランシスコが提唱した「慈愛の特別聖年」(12月8日〜2016年11月20日)がスタートしたが、その詳細な意義について8日前に紹介しようと考えていたが、10日を迎えて既にそのテーマは時季外れとなってしまった。

 そのように考えていた時、バチカン放送独語電子版によると、韓国ローマ・カトリック教会は来年から教会の特別な祝日には神父ら聖職者を北朝鮮に派遣し、北の信者たちと共に聖日を祝うことになったというのだ。

 これは教会関係使節団が平壌を訪問し、当地の教会関係者との話し合いの末、決定したという。大司教ヒジナス・金・ヒジュン司教会議議長はソウルで記者会見し、「来年の復活祭(3月27日)、ソウル大司教区から聖職者を平壌に送り、そこで現地の信者と祝う」と明らかにした。

 バチカン放送によると、韓国教会使節団は4人の司教と13人の神父、計17人から構成された大型使節団だ。4日間、北を訪問した同使節団は北の国家朝鮮カトリック協会から正式に招待されたもので、北人民議会副議長のKim Yong Dae氏に迎えられたという。
 同使節団は12月3日、平壌の長忠大聖堂で共同礼拝を行っている。同礼拝には70人の北のカトリック信者が参加したという。韓国カトリック教会の高位聖職者を団長とした使節団が平壌当局に招かれたのは今回初めて。

 それに先立ち、南北の宗教団体の代表らが参加した「平和大会」が11月9日から2日間、北朝鮮東南部の金剛山で開かれた。
 「世界キリスト教情報」によると、大会には、北朝鮮の宗教人協議会会長で、朝鮮カトリック教会中央委員長のカン・ジヨン氏ら、北側の代表団と、キリスト教、カトリック、仏教など韓国の7宗教団体の代表約140人が参加したという。北当局は、自国の宗教者への弾圧を強化する一方、韓国宗教者、教会代表を招き、頻繁に交流しているわけだ。

 世界のキリスト信者の迫害状況を発信してきた非政府機関、国際宣教団体「オープン・ドアーズ」が公表するキリスト教弾圧インデックスでは北は毎年、最悪の「宗教弾圧国」だ。その国で生きてきたキリスト信者の金ヨンスク(Kim Yong Sook)女史の証を聞く機会があったが、壮烈なものだった(「北のクリスチャンの祈り方」2015年9月21日参考)。聖書を持っているだけで拘束され、悪くすれば収容所に送られ、強制労働を強いられる。そこでは生きて帰ることが難しい状況だという。

 金女史の証を聞いていただけに、北当局の教会への懐柔策は少々腑に落ちない。国連を中心に北の人権蹂躙を糾弾する声が高まっている。それだけに、韓国から宗教人を招き、イメージ・アップに乗り出してきたのかもしれない。洋の東西を問わず、独裁者は別の主人に仕える宗教人を弾圧する一方、自身の統治のためにそれを利用するものだ。