ローマ法王フランシスコと中国の習近平国家主席は案外似ている、といえば、どちらが気分を害するだろうか。両者とも22日から米国入りし、オバマ米大統領のゲストだ。旅行日程が重なったことから、国際社会の注目が今売り出し中の南米出身のフランシスコ法王に注がれる結果、大国・中国を米国発で発信したいと密かに腐心してきた習氏が気分を害しているかもしれない。しかし、習主席は国賓として米国を訪問できたのだから、文句を言える立場ではないだろう。習氏には、自国に対する誇大妄想があって、非現実的な夢を追いかける悪い癖がある。

 さて、両者が現在米国をたまたま訪問中という以外に似ている点はあるのだろうか。あるのだ。最大の酷似点は、フランシスコ法王は世界に「約12億人の信者」を抱えるキリスト教会最大の教会指導者である一方、習主席は世界最大の「人口13億人以上」を有する国家の最高指導者だという点だ。すなわち、両者は10億人以上の組織・国家の長なのだ。

 考えてみてほしい、「12億人」「13億人」を有する組織、国家の頂点に立っている気分がどのようなものか、残念ながら実際に体験しない限り分からないが、「わが世の春」を謳歌するといった思いが湧いてくるかもしれない。フランシスコ法王はローマ・カトリック教会の12億人の羊たちを指導し、習主席は中国共産党最高指導者として13億人の民をその配下に置いているわけだ。

 それではフランシスコ法王と習主席の酷似点は米国訪問中という事実と12億人以上を有する組織・国家の長という2点だけだろうか。フランシスコ法王は78歳であり独身、習氏はまだ62歳で、人民軍歌手の彭麗媛夫人と結婚している。似ていない点の方が多い、と反論されるかもしれない。

 結論を急がず、考えて頂きたい。似ている点は「12億人」」13億人」という恐ろしい数字だけではなく、実はその内容にあるだ。フランシスコ法王は清貧を主張し、気さくで典礼など気にしない典型的な南米出身のローマ法王だ。教会の教義に対しても、同性愛問題、再婚・離婚者の聖体拝領問題まで寛容な姿勢を見せて教会内外で人気者だが、教会から去っていく脱会信者数はその後も増加しているのだ。フランシスコ法王の出身大陸、南米教会でも脱会傾向は深刻だ。世界最大教会と言われるブラジルでも多数の信者が教会に背を向けている。ローマ法王は人気者だが、教会は信者たちをもはや引き留めることができないでいる。ローマ法王の人気はあくまでも個人レベルで留まっているのだ(「教会は“賞味期限切れ”の組織?」2015年7月20日参考)。

 一方、中国13億人の頂点にある習主席はどうだろうか。フランシスコ法王より深刻なのだ。世界最大人口を有する中国は共産党一党独裁制度だが、共産党から脱退する党員数が今年2億人を超えたのだ(「中国には十分な空間がある」2015年5月19日参考)。共産党内でも党員証より企業の社長の名刺の方が人気があるのだ。また、共産党幹部やその子弟たちの海外移民、海外留学が盛んで、中国離れが進んでいるのだ。習主席は党幹部の腐敗対策に力を入れてきているが、なにせ人口が多い国だけに隅々まで監視の目が届かない、というのが現実だ。すなわち、中国共産党の実態はローマ・カトリック教会と同様、その土台が大きく震撼しているのだ。

 ちなみに、フランシスコ法王も習主席にも「暗殺情報」が流れている。フランシスコ法王に対する暗殺情報についてはこのコラム欄で報道したばかりだが、習主席も同様だ。中国の海外反体制派メディア「大紀元」によると、「習近平政権は精力的に進める反腐敗運動で、これまでに省高官以上の高級幹部100人あまりを取り締まった。一方で、習氏に対する暗殺未遂情報が中国国内でしばしば浮上している」というのだ(「ローマ法王の危険な10日間の『旅』」2015年9月18日参考)。


 まとめる。フランシスコ法王と習主席の最大の酷似点は崩壊寸前の10億人以上を有する組織、国家の指導者である点だ。ただし、法王は困窮に落ちた時、神に救いを求め、慰めを受けることができるが、習氏の場合、多くの政敵に囲まれ、自身以外に頼ることが出来ない孤独な指導者だ。換言すれば、有神論者と無神論者の違いだ。

 ひょっとしたら、フランシスコ法王はローマ・カトリック教会最後の法王に、習氏は中国共産党の最後の国家主席となるかもしれない。そうなれば、両者の酷似点はさらに1点、増えるわけだ。