当方が最近、米TV番組「ホワイトカラー」シリーズに凝っていることはこのコラム欄でも書いた。FBI警察ピーター・バークと天才詐欺師ニール・キャフリーのコンビによる犯罪捜査物語だが、そのストーリーはTVの世界だけだと思っていたが、そうではないことを最近、知った。世界的美術館で展示されているピカソなどの著名画家の絵が実は偽作だった、という話が最近多いのだ。オーストリア日刊紙プレッセの文化記事21日付から紹介する。

white
▲米TV番組「ホワイトカラー」のDVD、カバーはニール役の俳優マッㇳ・ボマーさん

 事の起こりは、有罪判決を受けた絵画偽作者ヴォルフガング・ベルトラッチ氏が19日、ドイツ公共放送局ZDFのトークショーに参加し、「アルベルティーナ(Albertina)美術館で展示されている Max Pechstein(1881〜1955年、ドイツの印象派画家)の裸婦の絵は自分が偽作した作品だ」と暴露したことだ。ウィーン市1区にある同美術館は素描約6万5000点、版画100万点と世界有数のコレクションを誇っている。そこで展示されている絵画の一つが偽作だったということで、美術関係者やファンは大きなショックを受けたのだ。

 アルベルティーナ美術館のクラウス・アルブレヒト・シュレーダー館長は、「印象派専門家が2007年の展示会のために問題となった絵画を高額で購入したが、後日、その絵が偽作と分かった」と認める一方、同絵画は既に撤去済みだと明らかにした。
 ちなみに、ベルトラッチ氏はヘレナ夫人と連携で偽作してきたが、同夫妻の偽作が展示されていることが判明し、日本では1983年開館されたマリー・ローランサン美術館が2011年9月、ニューヨークではクノエドラー美術館が、ほぼ同時期に急遽閉館に追い込まれた、というのだ。偽作問題の影響は美術館の評判にとって致命的なダメージとなるわけだ。

 ヘレナ・ヴォルフガング・ベルトラッチ夫妻は2011年、詐欺容疑で有罪判決を受け、昨年初めに刑を終えて出てきてから、多くのメディアとのインタビューに応じている。先述のZDFのトークショー番組はその一つだ。

 アルベルティーナ美術館館長は、「詐欺師を天才と評価し、持ち上げることは馬鹿げている。いずれにしても、美術専門家はその鑑定で間違うことだってある」と認めている。例えば、ピカソ専門鑑定士が過去、ベルトラッチ氏の7つの偽作絵画を「本物」という鑑定証を出しているのだ。専門家でもその真偽を鑑定できないとすれば、深刻な問題だ。

 ちなみに、天才詐欺師がその才能を買われ、FBIの捜査を助けるというホワイトカラーのストーリーは米映画「Catch me if you can」(2002年)に酷似している。ただし、後者の話は実話だ。天才的詐欺者フランク・W・アバグネイル氏の「自伝小説」を映画化したもので、レオナルド・ディカプリオが演じる若き詐欺師はパイロットから医者、弁護士まで転身し、人々を次々と騙していく(日本では「世界を騙した男」というタイトルで紹介されている)。ホワイトカラーは米国で昨年、全6シーズンの放映を完了したが、ベルトラッチ氏は年齢の差こそあるが、ホワイトカラーの主人公ニールを想起させる。

 美術愛好家にとって絵画を観賞しながら、「果たして本物だろうか」と呟かざるを得なくなるとすれば、淋しいことだ。3Dプリンター、高品質の印刷機などの発展で偽作は限りなく本物に近づいてきた。専門家すらその真偽を容易に識別できなくなってきたわけだ。本物は無数の偽作の中に交じってその市民権が脅かされているといえるだろう。「本物」の冬の季節が到来しているわけだ。