当然のことだが、悩みも国によってその内容が異なってくる。南欧スペインでは若者の失業者の急増が大きな悩みだし、フランスでは停滞する国民経済の復興をできるだけ痛みのない方法で成し遂げたい――といった難しいテーマに対峙している。悩みはその国の事情を直接反映する。ところで、「国民は豊かな生活を享受し休暇も十分だ。失業対策も成功し、欧州連合(EU)の中でもで失業率は低い。また輸出産業は順調で国民経済をひっぱっている。政権担当者ばかりか、国民も現状に満足している」――そんな国が存在する。EUの盟主ドイツだ。

 メルケル首相は第3次政権発足直後、「ドイツはこれまでになかったほどうまくいっている」と連邦議会で述べているほどだ。ドイツのIFO経済研究所は今月2日、第2四半期の独経済成長率が前期比でほぼゼロとなり、第1四半期のプラス0.8%から減速すると予想したが、メルケル政権関係者もメディア、そして国民もあまりその点に注意を払っていない。シュピーゲル誌はそれを“スーパー・オプティミスト”と呼んでいるわけだ。
 同国財務省はその後、「今年の成長率は政府予測の1.8%を上回る 可能性もある」と強気の予想を発表している。ちなみに、独連邦雇用庁によると、同国の今年8月の失業率は6・7%で過去20年で最低水準を維持し国民経済のさまざまな統計もメルケル政権の自信を裏付けている。

 他のEU諸国と比べ、悩みが少ないドイツだが、別の問題が提示されだした。それは「メルケル政権は現在と近未来についてのビジョンを提示してきたが、中短期の国家像に対するビジョンが欠けている」という指摘だ。独週刊誌シュピーゲル最新号は、「われわれは超楽天主義者」だというタイトルの記事を掲載している。メルケル政権に中長期の国家ビジョンが欠けていることに不満を評しているのだ。

 民主主義社会では有権者の意向を無視できない。そして有権者は今後10年先や20年先のことではなく、数年内に実施される政策を政治家に求める。失業者は現在の雇用市場の改善を最優先に求めるし、年金者は来月の年金が前年のインフレ率に相応してアップされることを願う。だから、政権担当者は現在と近未来のビジョンしか有権者にアピールできない。中長期ビジョンを提示して国民にその是非を問うことは難しいわけだ。

 コール元首相は「欧州の最大の問題は少子化だ」と述べたことがある。少子化問題は将来の労働不足、家庭問題、年金体制など密接に関連する問題だ。どの政党も政治家もそれを知っているが、それを前面に出して選挙を戦っても勝利はできないことも知っている。

 財政赤字問題で苦しむスペインやギリシャの国民から見たら、ドイツの悩みは贅沢な悩みといわれるかもしれない。しかし、国民経済がいい時にこそ国家の命運に大きな影響を及ぼす中長期問題に取り組むべき時だ。国民経済が低迷してきたら、どの政党、政治家もその対策に明け暮れて国家の中長期ビジョンを描く余裕などなくなる。
 ここにきてドイツは国際紛争の解決のために積極的な外交を展開してきている。将来を見越したドイツ外交として評価できる。