ロシアのクリミア併合に対して欧米諸国は制裁を実施してきた。欧州連合(EU)は3月17日、クリミア自治共和国とロシアの21人の政治家、軍人指導者の資産凍結、渡航禁止などの制裁を皮切りに、次第に制裁対象を広げてきたが、口の悪いメディアからは「子供の風呂桶に浮かぶプラスチック製のワニに過ぎない」と冷笑されてきた。ところが、欧米の対ロシア・ウクライナ制裁は決してプラスチック製のワニではなく、それなりの影響を与えていることがこのほど明らかになった。

 オーストリア日刊紙プレッセ(27日付)によると、ロシアやウクライナからオーストリアへ買物ツアーにくる富豪たちの数が減少してきたという。
 「ロシアからの旅行者が去った」というタイトルの記事で「ロシア人はウクライナ危機以来、歓迎されていないと感じ出した。また、高級ブティックで自分の口座が凍結されていることに気が付く場合も出てきた。その結果、オーストリアを訪問するロシア人観光客が減少してきた」という。

 ロシア人旅行者の買物は日本人や韓国人旅行者とは桁違いの規模だ。ブティックの全ての商品を買うのではないかと思えるほどだ。ウィーン市民がショーウインドー前で眺めながら溜め息が出るほどの高級服、バック、宝石などを彼らは買っていく。
 ロシアの大富豪の場合、高級品だけではなく、それを売る店舗や建物まで買ってしまう。だから、ウィーンの不動産業者も富豪ロシア人をお得意様にしているほどだ。例えば、英サッカーのプレミアリーグの名門チェルシーFCのオーナー、ロシア富豪ロマン・アブラモビッチ氏はウィーン市一等地の不動産を購入済みだ。

ロシア正教会のクリスマス・シーズンを迎えると、休日を取ってスキー休暇を楽しむロシア人が多い。彼らが好む旅先はオーストリアのチロル州、ザルツブルク州のスキー場だ。
 その時期になると、ザルツブルク空港やインスブルック空港はモスクワやサンクトペテルブルクからチャーター便が飛来して、殺到する、といった具合だ。

 ちなみに、オーストリアを2011年訪問したロシア人の数は約36万人だった。2005年に11万人だったから、その数は6年間で3倍強の増加を記録したことになる。オーストリア商工会議所によると、ロシア人旅行者が落とす外貨は年間3000万ユーロにもなると推定されている。

 ロシア人観光客の殺到はもちろんオーストリアのホテルやレストラン、高級店にとって恵みの雨だ。それがウクライナ危機以来、減少してきたというのだ。
 オーストリア統計局のデータによると、ウィーンを訪問するロシア人観光客の宿泊日数は今年3月は前年同期比で13%減、4月は22%減だった。

 ロシア人はウクライナ危機以来、オーストリアを含む欧州旅行を回避する傾向がみられるという。ロシア人は「われわれは歓迎されていない」と感じるからだという。もちろん、ルーブルの急落も響いている。

 プーチン大統領やロシア人指導者やオリガルヒ関係者が欧米諸国の制裁をどれだけ肌で感じているかは不明だが、オーストリアに来るロシア人富豪の減少は「制裁はそれなりに効果が出ているからだ」といえるかもしれない。