オーストリア国営放送(ORF)の夜7時半のニュース番組(Zeit im Bild)でアンカーを務めたオイゲン・フロインド氏(Eugen Freund)が今年5月に実施される欧州議会選挙に与党社会民主党の第一位候補者として出馬することになった。

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▲フロインド氏を報道すルオーストリア日刊紙エストライヒ(2014年1月21日、撮影)

 昨年末、ORFを定年退職したフロインド氏は社民党のオファーを快諾し、社民党候補者として出馬発表の記者会見に出たばかりだ。

 報道出身者ということもあって、フロインド氏は昔の同僚、ジャーナリストのインタビュー申込みには積極的に応じてきたが、それが最初の躓きとなった。

 週刊誌プロフィールとのインタビュ―で、記者から「フロインドさん、一般労働者の平均月収はいくらかご存知ですか」と質問された。人の良いフロインド氏は余り考えずに「3000ユーロではないですか」と答えてしまったのだ。3000ユーロといえば、約42万3000円になる。

 アルプスの小国オーストリアの一般労働者の平均月収は手取り約1360ユーロ(約19万2000円)だ。3000ユーロを稼ぐ労働者はほぼいない。フロインド氏のツイッターには「あなたは労働者の生活を知らない」「失望した」「あなたはエリート出身者に過ぎない。国民の生活を考えることができるのか」といった類の批判が殺到したのだ。同日のニュース番組でも「フロインド氏の3000ユーロ」発言はトップ・ニュースとして報じられた。

 社民党党首であり、フロインド氏を政界にスカウトしたファイマン首相は失言の影響を最小限度に抑えるために腐心。ただし、その直後開かれた社民党会合ではフロインド氏の発言の影響を懸念する声が出てきた。
 「労働者の政党という看板を掲げる社民党の候補者が労働者の生活を知らないことを暴露してしまった」といった声だ。

 社民党幹部の1人は「確かにマズいが、彼に第2のチャンスを与えるべきだ」と擁護。それに対し、「第2のチャンスはいいが、3度、4度となれば党としては考えざるを得なくなる」といった警告を発する声まで飛び出した。

 党会合では、フロインド氏の失言防止のために、同氏に党政策と路線を教育する一方、党から秘書(監視人)を派遣することなどの対応を取ることで一応落ち着いた。

 肝心のフロインド氏は自分の発言がメディアで叩かれるのを困惑な思いで受け取っている。特に、自分が久しくアンカーを務めた夜のニュ―ス番組の中で、他の民間放送と同様にフロインド氏の発言をシニカルに報道されたことは、本人にとってはかなりのショックだったようだ。

 政治学者は「ジャーナリストが政界に転身した場合、これまでのように自由に発言できない。フロインド氏は政治家として多くのことを学ばなければならない」と指摘している。

 フロインド氏は外交問題専門記者で米特派員などを経験してきたベテラン・ジャーナリストだ。同氏は社民党から声をかかられた時、「党は自分の著名度を理由に選出したのではなく、私の長いジャーナリストとしての経験を評価して選出したと信じている」と述べていた。

 オーストリアでも過去、ジャーナリストから政界に転身した報道関係者はいたが、多くは1期どまりで政界から足を洗っている。報道関係者が政治家に転身するのは考えられているほど簡単ではないわけだ。

 ジャーナリストと政治家は密接な関係がある一方、両者に求められる資質は異なる。前者は相手を批判し、質問する側だが、後者は批判され、質問を受ける立場だ。両者の相違をしっかりと理解していないととんでもない失敗をしてしまう。
 これまで政治家を批判してきた記者がある日、元同業者から厳しく批判にさらされた場合、フロインド氏のように困惑に陥るわけだ。