ローマ・カトリック教会では11月を「終末の月」「死者の月」と呼ぶが、行き詰まってきたイランの核協議は2つの重要な合意を実現し、全容解明に向けて蘇ってきた。

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▲IAEAの記者会見風景(2013年11月28日、ウィーンIAEA本部で撮影)

 国際原子力機関(IAEA)の天野之弥事務局長は11日、イランの首都テヘランを訪問し、サレヒ原子力庁長官らと会談、イランの核問題を検証する「協調のための枠組み」に関する共同声明を発表している。同共同声明によると、枠組みは、過去、現在の未解決問題を解決するために、アラクの重水製造施設とウラン鉱山へのIAEAの査察、新たな研究用原子炉と16か所の原発計画、追加濃縮機材、レーザー濃縮技術などに関する情報提供など6項目から成っている。イラン側は3カ月以内に上記の6項目を履行しなければならない。ただし、核兵器用の起爆実験が行われた疑いのあるテヘラン郊外のパルチン軍事施設は今回の合意の中に含まれていない。

 一方、イランと米英独仏中ロの6カ国は同月24日未明、イランがウラン濃縮関連活動の中断、その見返りとして対イラン制裁の一部緩和(原油輸出収入約450億ドルの凍結解除)などで合意した。具体的には、5%以上のウラン濃縮活動を停止、アラクの重水製造施設へのIAEAの査察などを認めることで、イランの核開発活動の透明性を高めていく内容だ。同合意を包括的合意に向けた第1段階の合意と位置付け、今後6か月間のイランの動向を監視しながら協議を重ねていくことになる。 
 
 IAEAは2003年にイランの核問題が議題となって10年間、イランと協議を重ねてきたが、「イランの核開発計画が平和目的であることを依然、検証できない状況」(天野事務局長の冒頭声明)が続いてきた。一方、2006年から始まった6カ国とイランの核協議はイランの核兵器開発容疑問題の透明性と対イラン制裁問題が議題となってきたが、これまで行き詰ってきた。

 両交渉がここにきて動き出した主因は、イランで8月、穏健派ロウハニ師が大統領に就任し、「核問題の早急な解決」に意欲を表明したことが契機となっている。その意味で、11月の「2つの合意」はロウハニ師が影の功労者といっていいだろう、

 ところで、両者の交渉には基本的な相違がある。天野事務局長は28日午後の記者会見の中で「「IAEAは独立機関だ。われわれの主要目的はイランの核計画の検証にある。一方、ジュネーブの交渉は、イランのウラン濃縮関連活動の制限と対イラン制裁の対応が主要目的だ」と説明、両交渉が異なった目標を掲げながら同時進行し出したと強調した。

 なお、IAEAとイランの協調枠組みは「3か月以内」、ジュネーブの合意は「6か月間」という期限を設定している。テヘランが28日、IAEA宛の書簡でアラクの重水製造施設への査察を認めたが、それはイランがIAEAとの間で合意した6項目の一つだ。
 
 両者の交渉の相違を別の表現でいえば、IAEAとイラン交渉は技術的テーマが焦点であり、ジュネーブの交渉はもっぱら政治的な要因の色が濃い。注意すべき点は、後者が政治的配慮から前者の交渉を妨げてはならないということだ。例えば、西側の外交筋は「米国はイランの過去の核開発容疑問題を深追いせず、今後の核開発を阻止する方向でテヘランと譲歩するのではないか」とみている。その場合、IAEAの核検証は中途半端で幕を閉じなければならなくなる可能性が出てくる。
 天野事務局長は28日、「ジュネーブの交渉で調停役を演じた欧州連合(EU)の外交担当上級代表、キャサリン・アシュトン氏は書簡の中で『IAEAがイランの核問題の解決で重要な役割を担っている』と強調した」とわざわざ言及したのも、そのような懸念があるからだろう。

 イランの核協議は11月、2つの交渉で合意され、異なるテンポでその履行に向けて動き出した。「2つの合意」が最終的に大きな結実をもたらすかどうかはイランの履行状況にかかっていることはいうまでもない。ただし、シリアの内戦問題の行方がイランの核協議の進展にも様々な影響を与えることは十分考えられることだ。