以下のテーマでコラムを書くことに少し抵抗感はあったが、これも現実の一面を反映していると考えて書くことにした。オーストリア経済誌「トレント」最新号は国内の職種別人気度(イメージ)の調査結果を報じたが、それによると、政治家の人気度は下から2番目で、売春婦より低く、かろうじてロビイストより上だったことが判明した。同国の日刊紙エステライヒは早速、「売春婦より人気のない政治家」というタイトルで大きく報じている。ちなみに、最も人気が高い職種は医者、弁護士、教師が上位3位に位置している。

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▲オーストリアの政界で人気の高い統合問題担当国務長官クルツ氏(オーストリア内務省提供)

 アルプスの小国オーストリアで政治家の人気はどうして低いかを考えてみた。明確な点は、与・野党政治家の汚職、腐敗が絶えないことだろう。国民党政権時代に内務相を務めた前欧州議員エルンスト・シュトラッサー氏は現在、賄賂容疑などで裁判で争っている。最悪の場合、4年間の刑期が待っている。ケルンテン州では与党関係者の汚職が次々と判明し、クリーンな政治家を探すのに苦労するほどだ。これでは国民の政治家へ向ける目が厳しくなるのは当然かもしれない。

 同国の政治構造にも問題があるようにみえる。オーストリアは地理的にチェコ以上に東欧地域に位置しているが、地理的な位置だけではなく、その政治システムや経済構造は冷戦時代の旧東欧諸国以上に東欧的と言われてきた。同国の政財界の主要ポストは政党の勢力に基づいて配分される。例えば、国営放送の人事や国営企業の幹部人事がそうだ。大手企業で昇進するためには主要政党の党員となることが最短距離だ。無所属や独立派が主要ポストを獲得するのはこの国では至難の業だ。

 最近、同国の政界でニューカーマーとして人気を呼ぶ若手政治家がいる。与党・国民党のセバスチャン・クルツ氏(27歳)だ。同氏はファイマン第一政権では移住民統合促進担当の国務長官を務めてきたが、積極的な活動で国民の人気は高い。そこで第2次ファイマン政権では「外相のポストにも」といった声が聞かれる。
 30歳にもならないうえ、外交経験は正直言って皆無だ。国民党青年部を担当してきただけだ。その若手政治家を国の外交のトップにという声が出てくるところはオーストリア的だ。政治家の資質より、国民の受けを重視する。この傾向は最近、とみに強くなってきた。

 「クルツ氏外相待望論」の背景には、同国の外交は誰がやっても同じだという認識が前提にあるはずだ。だから、クルツ氏を欧州最年少外相にすれば面白い、といった無責任なアイデアが飛び出す。国民が政治に対して真剣さを失ってきた証拠だろう。

 オーストリアにも能力ある人物はいるが、彼らは政治家を目指さない。多くはビジネス界に入る。だから、農業組合など利益団体や労組出身の党人が結局、政治家になる。彼らは出身政党、労組、団体の利益を第一に考えるから、その政治は面白くない、といった悪循環となるわけだ。それにしても、一国の政治家のイメージが売春婦より悪いという国は、ひょっとしたらオーストリアだけではないだろうか。

     職種       人気度

     医者       +80%
    弁護士      +46%
    教師       +40%
    ジャーナリスト  +21%
    聖職者      +14%
    公務員       +4%
    売春婦       +1%
    企業顧問     −17%
    銀行家      −18%
    保険業者     −19%
    金融顧問     −34%
    政治家      −65%
    ロビイスト    −67%

     (出典経済誌「トレント」)