ウクライナのヤヌコヴィチ大統領がオーストリアを公式訪問中、キエフから「同国政府が欧州連合(EU)との間で締結予定だった連合協定の署名を延期する決定を下した」というニュースが飛び込んできた。ホスト国でEU加盟国のオーストリア側もビックリ。フッシャー大統領はヤヌコヴィチ大統領と再度の会見を申し込むなど、ウクライナ側の真意の掌握に乗り出したほどだ。

aaab
▲オーストリアのシュビンデルエッガー外相と握手するウクライナのヤヌコヴィチ大統領(左)(2013年11月22日、ウィーンの外務省で、オーストリア外務省提供)

 ヤヌコヴィチ大統領は先月、議会がEUとの自由貿易協定(FTA)を核とした連合協定の署名を決めたならばティモシェンコ前首相を治療目的で出国させる意向を表明していたが、同国議会は21日、収監中の前首相の釈放法案を否決した。キエフの決定にブリュッセル側も少なからずのショックを受けている。

 連合協定はウクライナをEU市場に開放し、将来の加盟を視野に入れた一歩と受け取られ、経済停滞するウクライナにとっては国民経済の命運をかけた路線決定と考えられてきた。一方、ロシア側は「EU路線を決定すれば、ウクライナはロシアのガスに対して高価格(1000立法メートル、420ドル)を支払わなければならない。そのうえ、対ロシア貿易を制限する」と警告を発してきた。それだけに、キエフ政府の決定はウクライナが旧ソ連の盟主ロシアの圧力に屈したと解釈されている。対シリア内戦問題でオバマ米政権に恥をかかせたプーチン大統領の‘第2の外交勝利‘と報じるメディアもあるほどだ。

 ウクライナ側にとってEU接近は重要だが、その成果は短期間では期待できないことは確かだ。ウクライナの商品の競争力向上、経済機構の改造が先決だ。それらを解決すれば、長期的には国民経済の発展は期待できる。一方、対ロシア関係は、冬を控えガス供給問題、大きな比重を占める対ロシア貿易など現実の問題だ。ロシアの機嫌を害することはできない。

 その上、2015年に再選出馬するヤヌコヴィチ大統領は、政敵ティモシェンコ前首相の出国をどうしても阻止したいという事情がEU接近延期という背後にあったはずだ。ヤヌコヴィチ大統領は結局、ロシアとの関係を享受するほうが長期的メリット(EU接近)を模索するより重要と考えたのだろう。どの国でも選挙を控えた政治家は長期的な利点より短期的なメリットを選ぶ。キエフ側は今後、ロシア、カザフスタン、ベラルーシと関税同盟に加盟する路線を選ぶことになるだろう。なお、ウクライナの野党や国民からは「4600万人の国民の未来を奪った」と政府の決定を厳しく批判する声が出ている。

 オーストリア日刊紙プレッセ(23日付)はロシア議会の国際問題委員会のアレクセイ・プシュコフ委員長(Alexej Puschkow)との会見記事を掲載したが、そこで同委員長は「欧州側はウクライナの主権を蹂躙するような条件をキエフに強いてきた。その上、ティモシェンコ前首相を治療目的で出国させるように圧力をかけてきた。ロシアはキエフの主権を常に尊重してきた。同時に、EUはここ数年、ギリシャ、スペイン、ポルトガルなどの財政危機に直面し、ブリュッセルの財政力は明らかに弱体してきた。キエフ側はEUに接近しても十分な財政支援は期待できないと考えても不思議ではない」と述べている。

 いずれにしても、ウクライナの対EU接近延期決定は、EUの経済力・政治力の弱体化を図らずも露呈する結果となったことは間違いないだろう。