国際機関「宗教・文化対話促進の国際センター」(KAICIID)は今月18日から2日間の日程でウィーンのヒルトン・ホテルで「グローバル・フォーラム」を開催した。同センターは昨年11月26日、サウジアラビアのアブドラ国王の提唱に基づき設立された機関で、キリスト教、イスラム教、仏教、ユダヤ教、ヒンズー教の世界5大宗教の代表を中心に、他の宗教、非政府機関代表たちが集まり、相互の理解促進や紛争解決のために話し合う世界的なフォーラムだ。

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▲インタビューに応えるユダヤ教ラビのローゼン師(2013年11月18日、ウィーンで撮影)

 そこで同フォーラムに参加した米ユダヤ教宗派間対話促進委員会事務局長のラビ、デヴィト・ローゼン師(David Rosen)に欧州で広がる反ユダヤ主義の背景などについて聞いた。

 ――世界ユダヤ協会(WJC)のロナルド・S・ローダー会長は「欧州で反ユダヤ主義が席巻してきた」と警告を発している。米ユダヤ教宗派間対話促進委員会事務局長としてその発言をどのように受け取っているか。 

 「数字を見る限り、反ユダヤ主義に基づく件数が増加しているが、増えているのは反ユダヤ主義だけではない。外国人嫌い(Xenophobia)も広がっている。同時に、過激なナショナリズムも台頭してきた。それらは経済的理由や政治的不安定さによって助長されている。反ユダヤ主義が存在しないとはいえないが、『欧州に住むユダヤ人にとって人生は厳しい』という受け取り方は正しくはない」

 ――世界第2次大戦まではポーランドでは300万人以上のユダヤ人が住んでいたが、今日、その数は7000人余りという。ユダヤ人が急減しても反ユダヤ主義は席巻している。「ユダヤ人なき反ユダヤ主義」の現象をどのように理解しているか。

 「反ユダヤ主義は人類歴史の中に彷徨っている耐性化ウィルスだ。そのウィルスのルーツは何か。多くの原因が考えられるが、主因は人間がスケープゴート(贖罪の山羊、生贄)を必要としている存在だということだ。何が悪い事が生じると、誰かをその原因として非難する。そしてユダヤ人は伝統的にスケープゴート役を担ってきた。歴史的にみて、ユダヤ人は常に放浪の民だったのだ」

 ――反ユダヤ主義の台頭が指摘されるポーランドやハンガリーはローマ・カトリック教国だが、反ユダヤ主義はカトリシズムと関連があるか。

 「キリスト教は過去、ユダヤ人に対して敵意を説きまわっていたが、今日はカトリック教会を含むキリスト教会は反ユダヤ主義に毅然と反対している。決して反ユダヤ主義の扇動者ではない。ハンガリーを例に挙げてみる。カトリック教会のエルドー・ペーテル枢機卿は反ユダヤ主義を厳しく批判する最も力強い声だ。カトリック教会は歴史的には反ユダヤ主義を煽ったことがあったが、現在は逆だ。世俗的な反ユダヤ主義は存在するが、彼らは宗教的用語を使用するだけで、教会とは全く関係がない」
 
  ――ユダヤ教、キリスト教、そしてイスラム教はアブラハムから派生した宗教だが、3宗派の間でこれまでいがみ合い、紛争が絶えなかった。

 「宗派間の連帯をテーマとした数多くの会議が開催されている。アブラハムの宗教の一体化を叫ぶ運動はこれまでにないほど高まってきている。ただし、メディアは良きことは報道ぜす、悪いことだけを強調する。世界には悪いことより、良いことがもっと多くあるのだ」
 
 ――超教派運動やキリスト教の統合を求める声は聞くが、掛け声だけで終わっている印象がある。

 「繰り返すが、世界の多くのところで人間の一体化を求めたり、アブラハムの宗教の統合を模索する多くの動きがある。相違を尊重した統合への動きだ」

 ――最後に、KAICIIDはサウジアラビアのアブドラ国王の提唱に基づいて設立された機関だが、サウジのイスラム教は戒律の厳しいワッハーブ派だ。同国では少数宗派の権利、女性の権利が蹂躙されている。

 「あなたのためにサウジアラビアの動機を分析できるが、明らかな点はタルムード(モーセが伝えた律法)が指摘していることだ。すなわち、『たとえ道理が純粋ではなくても、全ての人に良き結果をもたらすのならば、その良きことをすべきだ』」