国連安全保障理事会はシリアに化学兵器廃棄を義務付ける決議案を全会一致で採択し、それを受け、オランダ・ハーグに本部を置く化学兵器禁止機関(OPCW)は2014年末までにシリアの化学兵器を完全に廃棄する計画を作成し、実施中だ。第1段階の国内の化学兵器製造施設の査察、関連機材の破棄は先月末でほぼ終了したが、次は化学物質(兵器)の国外搬出など具体的な計画が問題だ。

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▲北朝鮮の化学工場の機材(2005年、独化学者が新義州化学繊維複合体内で撮影)

 欧米外交筋では、ノルウェーとアルバニアの2国が搬出先国として挙げられているが、ノルウェーは国内受け入れを拒否する一方、アルバニアでは国民が受け入れ反対デモを議会前でするなど、予想されたことだが抵抗が出ている。一方、韓国外務省は12日、OPCWに対し韓国専門家の査察団参加の意向を提出するなどの動きも表面化してきた。
 
 ノルウェーの場合、先月の段階で「一時受け入れ案」の米国提案を拒否する一方、AP通信によると、ノルウェーのブレンデ外相は14日、シリア化学兵器の国外搬出を支援する海軍フリゲート艦と民間輸送船の派遣用意を表明している。アルバニアの場合、シリアの化学兵器が国内で処理されるという情報が流れると、野党を中心に現政権批判の声が高まってきている。政府側は「まだ何も決定していない」と説明し、国民を鎮静化することに腐心。ちなみに、OPCWは過去、アルバニアの化学兵器破棄作業を行った経験がある。いずれにしても、国民に危険が及ぶ化学兵器の処理作業を喜んで受け入れる国は基本的にはないだろう。
 
 韓国の場合、「シリアで北朝鮮の化学兵器有無を調査するためにOPCW査察団への参加を表明した」と一部では憶測されている。シリアと北朝鮮両国間で化学兵器製造に関する連携がある、といわれて久しい。例えば、イスラエルが2007年9月、シリア北東部の核関連施設(ダイール・アルゾル施設)を空爆し、破壊した。ダマスカスは「軍事施設」と説明しているが、イスラエル側は北朝鮮の支援を受けて建設中の原子炉だったと主張してきた。核関連計画が両国間で進められているとすれば、化学兵器の製造でも何らかの連携があったはずだ、とソウルは当然考えているわけだ。
 
 付け加えると、軍事大国・中国も北朝鮮の化学兵器を恐れている。 北消息筋によれば、北国内に少なくとも5カ所、化学兵器を製造する施設がある。中国が恐れているのは両国国境近くにある北の化学工場だ。北消息筋によると、2008年11月と09年2月の2度、中国の国境都市、丹東市でサリン(神経ガス)が検出された。中国側の調査の結果、中朝国境近くにある北の新義州化学繊維複合体(工場)から放出された可能性が高いという。北の化学兵器管理が不十分だったり、事故が発生した場合、中国の国境都市が先ず大きな被害を受ける危険性があるのだ(「これが北の化学工場の設備だ」2013年5月24日参考)。アサド政権が8月21日、首都ダマスカス郊外で化学兵器を使用したが、同国
野党側によると、子供を含む約1300人が犠牲となったという。

 アサド政権がOPCWに提出した約700ページに及ぶ資料によると、シリア内の化学兵器の関連施設は約50カ所、その量は約1300トンだ。内戦下で化学兵器の破棄作業は難しい。査察官の安全確保も大きな課題だ。国際社会の連携がなければ、OPCWの破棄計画は履行できない。それだけに、どの国がシリアの化学兵器を受け入れ、OPCW査察団の処理作業を認めるか、国際社会は厄介な課題に直面しているわけだ。