北朝鮮の最高指導者、金正恩第1書記は今月11日、第1書記就任1年目を迎え、ここにきて意識的に祖父の故金日成主席、父親金正日総書記と距離を置こうとしている様子が伺える。

P4110752
▲現地視察をする金正恩氏(駐オーストリアの北大使館写真掲示板から、2013年4月11日、撮影)

 父親・金正日総書記の突然の死去で政権が転がり込んできた直後、叔父の張成沢氏の入れ知恵もあって不足するカリスマを補うために祖父・金主席の言動を摸倣してきた。父親とは違い、重要な大会では生の演説をし、髪型も祖父に似たスタイルに変え、祖父世代にノスタルジーを呼び起こした(同時に、ファースト・レディ李雪主夫人を連れて遊園地やコンサートを鑑賞し、若い世代向けにも新鮮なイメージを与えることも忘れなかった)。

 しかし、祖父摸倣プロセスもここにきて一息をつき、独自のスタイルを前面に打ち出す新しいイメージ作戦に乗り出してきた兆候がみられる。祖父の生誕101年祭で祖父の功績を称えるというより、米韓との軍事抗争に立ち向かい「孤高の指導者」というイメージを前面に出し、祖父の功績を想起するといった懐古趣味はまったくない。

 ウィーン市14区の北朝鮮大使館では11日、生誕101年祭に先駆け、祝賀会が開催されたが、同大使館正面前の写真展示には祖父・金日成主席の写真が一枚も掲示されていなかった。20枚余りの写真は軍事パレードの時のミサイル写真以外は金正恩第1書記の肖像画、現地視察の姿だけだ。

 親北派のオーストリア人は「これは通常では考えられない。故金主席や金総書記の誕生日を控えると、毎年、金主席関連の写真や総書記関連の写真で大使館の展示場が埋まる。故金主席生誕101年祭を控えながら、金主席の写真は全くなく、若い指導者の金正恩氏の写真だけで飾るということは普通ではない。これでは正恩氏が祖父金主席の功績を意図的に無視していると批判されかねない」と指摘、平壌指導内部でなんらかの権力闘争が展開されている可能性もあると推測している。

 「金主席の写真を入れるのをウィーン駐在の北外交官が忘れただけだ」という声もあるが、北外交官が故主席の生誕101年祭を控え、写真の入れ替えを忘れたといった見方は説得力に欠ける。意図的に祖父を無視し、金正恩氏オンリーの写真を掲載することで厳しい国の運営に当たる若き指導者のイメージつくりに腐心しているからだろう。カリスマ性のある祖父の写真の側ではそのイメージ作戦も効果が薄れてしまうからだ。

 換言すれば、金正恩氏は第1書記就任1年目が過ぎ、祖父離れ、父親離れの離乳期を迎えているともいえる(叔父の張成沢氏の同伴する姿もここにきて減少してきた)。

 金正恩氏の対韓、対米威喝発言の背景には、「祖父と父親を超えなければならない」といった正恩氏の悲痛な焦りが見え隠れしている。