ローマ法王べネディクト16世は今月28日、法王職を退位するが、同16世の法王退位表明はペテロの後継者として絶対的権威を有してきた「法王職」のカリスマ性を削除し、(法王職の)非神秘化をもたらす可能性がある。これは昨年12月末、べネディクト16世と同様、早期退位した英国国教会のローワン・ウィリアムズ前大主教(在位2002年〜12年)がバチカン放送とのインタビューの中で語ったものだ。

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▲今月末に退位するべネディクト16世(バチカン放送独語電子版から)

 前大主教は過去、ドイツ人法王と数回会見したが、「法王は今後も職務を継続すべきだろうかで内省していた」という。前大主教によれば、「法王の心には前法王ヨハネ・パウロ2世の最後まで職務を全うする姿があったが、死ぬ瞬間まで法王職を行使するより、教会のため潔く退位するほうが賢明ではないか、という考えがあったのではないか」という。

 ローマ・カトリック教会ではローマ法王は本来、終身制であり、絶対的な権威を有している。1870年には、第1バチカン公会議の教理に基づき、「法王の不可誤謬性」が教義となった。すなわち、ペテロの後継者ローマ法王の言動に誤りがあり得ないというのだ。「イエスの弟子ペテロを継承するカトリック教会こそが唯一、普遍のキリスト教会」という「教会論」と共に、「法王の不可誤謬性」は、カトリック教会を他のキリスト教会と区別する最大の拠り所だ。同時に、キリスト教の統一を妨げる最大の障害ともなってきた。世界的な神学者、ハンス・キュンク教授は1979年、「法王の不可誤謬説」を否定したたため、当時のローマ法王ヨハネ・パウロ2世から聖職を剥奪されている。
 
 しかし、べネディクト16世の在位期間、「法王の不可誤謬性」は大きく震撼した。同16世は2009年、オーストリア教会リンツ教区のワーグナー神父を補佐司教に任命したが、教区内の反対を受けると、任命を取り下げた。「法王の任命権の絶対性」を法王自身が否定した。また、法王は同年1月、破門された故マルセル・ルフェーブル大司教が創設した「ピウス10世会」の4人の司教に対する「破門宣言撤回」教令を出したが、破門宣言が撤廃された4人の司教の一人、リチャード・ウイリアムソン司教がスウェーデンのテレビ・インタビューの中で、「ホロコーストのガス室は存在しない」と発言し、バチカンに大きなショックを与えた聖職者だった。ベネデイクト16世は同年3月10日、世界の司教たちへの書簡の中で「バチカンが間違い(破門撤回)を犯した」と認めている。
 べネディクト16世は在位8年間で少なくとも2度、その決定の誤りを認めている。法王自身が「法王の不可誤謬性」の教義に囚われていないわけだ。そして今回、健康を理由に法王の退位を表明することで、終身制の法王職への新しい解釈の道を開いたわけだ。

 “カトリック教理の番人”と呼ばれ、保守派法王といわれ続けてきたべネディクト16世は歴代法王がなすことができなかった法王職の刷新を実施したことになる。「法王の不可誤謬性」のドグマを無視すると共に、教会で神秘化されてきた「法王職」の見直しを退位表明を通じて提示したからだ(プロテスタント教会や正教会とのキリスト教の再統合への対話の道が開かれる)。

 べネディクト16世は、聖職者の性犯罪犠牲者の話を聞きながら、泣き出し、人選で過ちがあれば訂正した。そして、自身の法王職も健康問題で完全に履行できないと判明すると退位を表明した。ドイツ人の学者法王は8年間の在位期間で、27年間の長期政権を誇った前法王ヨハネ・パウロ2世にも劣らない功績を残したことになる。