イタリア通信ANSAの写真記者が11日、サン・ピエトロ大聖堂の頂点に雷が落ちた瞬間を撮影した。撮影した時がローマ法王ベネディクト16世の退位表明直後だったことから、「神からの徴(しるし)」と受け取る信者たちが出てきた。

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▲サン・ピエトロ大聖堂の頂点に雷が落下(バチカン放送独語電子版から)

 サン・ピエトロ大聖堂は使徒ペテロの墓があった場所に建立された、ローマ法王はそのペテロの後継者だ、その法王が職務放棄を意味する退位表明を発表した、神からの何らかの返答があっても可笑しくない。「神の徴」支持者はこのように考えるわけだ。

 一方、法王退位表明直後から「ベネディクト16世はバチカン内の一部勢力の陰謀の犠牲となった」という陰謀説が飛び出している。
 ベネディクト16世自身、13日の一般向け謁見の中で「私の辞任表明はペテロの後継者としてその職務が完全には履行できなくなったからだ」と説明し、健康問題が退位の主因であると強調している。バチカンのロムバルディ報道官も12日、10年前に法王は心臓にペースメーカーを入れ、3カ月前にバッテリー交換の手術を受けたばかりだ」と発表し、ドイツ人法王が久しく健康問題を抱えてきたことを明らかにしている。

 にもかかわらず、陰謀説は広がる気配がある。メディアが陰謀説を愛するからだが、まったく根拠がない、というわけではない。当方は「バチカンは秘密の宝庫」というコラムを書いた事があるが、法王を取り巻くバチカン内には秘密が山積しているからだ。

 代表的な陰謀説をここに紹介する。タルチジオ・ベルトーネ国務省長官を首謀とした一部高位聖職者がドイツ人法王を追放するため、法王を脅迫していたというのだ、一昨年末から昨年に掛けて流れた法王暗殺計画はその一つだ。バチカンの一部勢力がマフィアと連携し、バチカン銀行(正式には宗教事業協会、IOR)の不正活動に対して調査に乗り出した法王を殺害しようと画策していたというのだ。
 ベネディクト16世の執事が法王宛の内部文書を盗み、それをジャーナリストに流すという通称「バチリークス」事件の主犯、法王のパオロ・ガブリエレ前執事は司法当局の調査に対し、「危険に瀕している法王を救う為にした」と、犯行の動機を述べている(重窃盗に問われた前執事は裁判で禁固1年半の有罪判決を受けた後、法王に恩赦された)。

 ちなみに、バチリークス事件の裁判では、べネディクト16世が事件調査のために設置した事件調査委員会(代表スペイン出身のユリアン・へランツ枢機卿)が作成した調査報告書は最後まで公表されなかった。また、ガブリエレ被告の公判では被告が犯行で接触した関係者の発言機会がまったくなかった。バチリークス事件の裁判は幕を閉じたが、謎は深まる一方だ。バチカン内の権力、利権争いに疲れ切った学者法王ベネディクト16世は11日、健康問題を理由に自主的な退位を表明したわけだ。

 神は無能ではない。全ての創造主であるとすれば、神を信じる世界最大のキリスト教会のトップ、ローマ法王の退位表明に対しても何らかのメッセージがあっても不思議ではない。その一つが退位表明直後、サン・ピエトロ大聖堂の頂上に落下した雷ではないか、と「神の徴」論者たちは主張するが、それでは「バチカンのシンボル、大聖堂への雷の落下は何を意味するのか」については余り語っていない。

 世界に約12億人の信者を抱えるローマ・カトリック教会は新しい時代の到来で大きな転換を迎えている。雷の落下は、神が今後、そのプレゼンスを明確に示すと告げた進撃のラップではなかったか、と考えている。「神の不在」を嘆いてきた時代は過ぎ去ろうとしているのではないだろうか。