財政危機に瀕するギリシャのユーロ圏離脱はもはやタブー・テーマではなくなった。半年前までは「ギリシャのユーロ離脱」を示唆する発言した政治家は「ユーロ圏の統合を危機に落とす無法者」の烙印を押されたものだが、今ではギリシャのユーロ圏離脱は織り込み済みで、「その後のシナリオ」が欧州の政治家の口から飛び出すケースが増えてきた。

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▲オーストリア連邦首相府(2012年6月21日、撮影)

 オーストリアの日刊紙クリア(30日付)は、英オックスフォード・エコノミック研究所のデーターに基づきオーストリア経済研究所が予測した「ユーロ圏の崩壊とその影響」について紹介していた。それによると、ギリシャ、キプロス、イタリア、アイルランド、スペイン、ポルトガルが2013年第1・4半期にユーロ圏を離脱し、残った加盟国が通称「北ユーロ圏」を形成した場合と、ユーロ圏が完全に崩壊し、各加盟国が旧通貨を再導入するケースを想定して、「その影響」を分析している。それによると、「ユーロ圏の崩壊は欧州諸国に大きな経済ダメージを与え、リセッション(景気後退)、失業者の増加といった厳しい状況を生み出す」と予測している。

 具体的な例として、「オーストリア経済への影響」について。
 「13年に110億ユーロ、14年には320億ユーロの経済損失が生じる、その総額は11年国内総生産の11%に相当する。特に、輸出産業は大きなダメージを受ける。例えば、対イタリア輸出でイタリア通貨リラの急落でオーストリア製輸出商品は急騰し、売れなくなる。同国の経済成長が本格的に回復するのは17年に入ってから。13年から17年の5年間は“失われた年”と呼ばれるだろう。国民経済は13年から14年にかけリセッションに陥り、失業率は現在の4・5%から7・6%に増加(約14万人増)する」

 北ユーロ圏が形成されたとしても「早期に回復は期待できない。ユーロ圏の経済力は約30%、縮小する」とみられる。ユーロ圏が旧通貨を再導入した場合、「その影響は北ユーロ圏形成よりもマイナスが大きい。リセッションは長引き、失業者も更に増える」というのだ。どちらに転んだとしても、ユーロ圏の見通しは当分、深刻だ。

 ちなみに、オーストリアの国民経済は過去、「欧州の統合」が促進される度にその恩恵を受けてきた。例えば、欧州連合(EU)加盟によって同国の経済成長率は0・6%増をもたらした。EUの東方拡大、ユーロ圏の形成で各0・4%の成長率がもたらされた。それだけに、「ユーロ圏の崩壊」は、同国の国民経済にマイナスとなる事態が避けられなくなるわけだ。