北朝鮮の故金正日労働党総書記時代には「音楽政治」と呼ばれた政策があった(「金総書記の『音楽政治』」2008年3月1日参照)。オーケストラの交流などを通じて南北間や対米関係を改善するというものだ。「音楽」の政治性は否定できない。ヒトラーもリヒャルト・ワーグナーのオペラ「トリスタンとイゾルデ」を愛し、ワーグナーの民族主義、反ユダヤ主義に大きな影響を受けたことはよく知られている。北朝鮮労働党の機関紙・労働新聞は2007年9月、「アリラン公演には金総書記の統一への意思が盛り込まれている。アリランは金総書記の作品である」と強調したほどだ。
 その息子、金正恩第1書記はここにきて「スポーツ政治」を推進してきた。国際社会から孤立した北朝鮮がスポーツを通じて外交を展開し、北のイメージ・アップを図る狙いがあるといわれる。父親が「音楽」で、その息子は「スポーツ」で国際社会に北の国威をアピールしたいというわけだろう。

 ロンドン夏季五輪大会は27日、開幕式を迎える。世界のスポーツ・ファンだけではなく、全世界の人々の耳目が集まる五輪大会だ。米国プロ・バスケットボール(NBA)の大ファンだった金正恩氏も最高指導者として迎える初の五輪大会にかなり熱を入れているという。ちなみに、北は今回、11種目、51人の選手団をロンドンに派遣するという。今大会では男女マラソンから射撃、レスリング、ボクシングなど伝統的に強い競技を中心に10個の金メダルを目指すという。オリンピック大会で金メダルを獲得すれば、国歌も流れる。北にとっても格好の宣伝の場だ。北指導者が五輪の舞台を逃すわけがない。

ban
▲国連事務総長のスポーツ問題担当特別代表、レムケ氏(レムケ代表の公式サイトから、右・潘基文国連事務総長)

 その一方、ロンドン五輪村の裏では南北間のスポーツ外交が展開するという。独週刊誌シュピーゲルによると、国連の潘基文事務総長のスポーツ問題特別代表、ドイツ人のヴィリー・レムケ氏(Willi Lemke)がロンドンで北代表団と接触し、2015年、韓国の光州開催の第28回夏季ユニバーシアード大会で南北合同チームの参加案を話し合うというのだ。08年4月以来、国連事務総長スポーツ問題特別代表を務める同氏は「スポーツは人々を容易に一つにし、相違を乗り越えることができる」と確信、年内にも平壌を訪問して南北合同チーム案を煮詰めていくという。
 ちなみに、昨年11月カタールで開催された「平和とスポーツ卓球杯」では男子ダブルスで南北選手がペアを組んで優勝している。レムケ氏の活躍を期待したい。