ローマ法王べネディクト16世の執務室から書簡や文書を盗み出し、その一部をメディアに流した容疑で拘留されていた法王個人執事、パオロ・ガブリエレ容疑者(46)が21日、60日間の未決拘留から釈放され、2カ月ぶりに自宅に戻った。バチカン法王庁のロムバルディ報道官は同日夜、「ピエロ・ボネット予審判事は元執事を今後、自宅監禁とする決定を下した」と発表した。バチカンのニコラ・ピカルディ検事は近日中に公判を開始するか、告訴しないかを決める。

 バチカン市国は5月23日、ローマ法王ベネディクト16世の執務室や法王の私設秘書、ゲオルグ・ゲンスヴァイン氏の部屋から法王宛の個人書簡やバチカン文書を盗み出し、イタリアのメディアに流した容疑でガブリエレ執事を逮捕し、内部情報流出事件(Vatileaks)の背後を調査してきた。

 司法側とは別に、べネディクト16世は3人の枢機卿(代表スペイン出身のユリアン・へランツ枢機卿)から構成された調査委員会を設置し関係者への尋問を進めてきた。同調査委会の尋問作業も完了し、報告書は法王に提出されたという。ちなみに、同委員会は枢機卿を含む約30人の聖職者を尋問したという。

 調査の焦点はガブリエル執事の単独犯か、共犯者、グループが背後にいるのかを明らかにすることだ。ガブリエルの弁護士カルロは「ガブリエレ容疑者は個人的な理由、法王を助けたいという熱意で法王暗殺関連文書や書簡をメディアに流した」と単独説を主張している。

 単独説の問題点は、ガブリエレ容疑者がどのようにして暴露ジャーナリスト Gianluigi Nuzzi に接触し、内部文書を手渡したかを説明しなければならない。事件発覚当初、ガブリレ容疑者は単なる手先に過ぎず、その背後に共犯グループが暗躍しているという憶測が支配的だった。独週刊誌シュピーゲルは「バチカン法王庁内を震撼させている内部情報流出問題などは、法王から権限を得た高位聖職者たちの権力争い、次期法王への思惑、妬みなどが絡んで飛び出してきた結果だろう」と指摘している。イタリアの一部のメディアはバチカンのナンバー2、タルチジオ・ベルトーネ枢機卿(国務長官)が内部情報流出問題の黒幕と受け取っているほどだ。
 
 いずれにしても、メディアの関心が薄まってきた今日、被害者(ローマ法王)と加害者双方に大きなダメージを与えるバチカンの内部情報漏えい事件をガブリエレ容疑者の単独説で早期幕引きしようとする動きがバチカン内部で強まってきても不思議ではない。