ローマ法王べネディクト16世は2日、辞任した米国人のウイリアム・レヴェイダ教理省長官の後任にドイツ・レーゲンスブルク教区のゲルハルト・ルードヴィヒ・ミュラー大司教(64)を任命した。同大司教は著名な神学者で、カトリック教義学の専門家として知られている。

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▲カトリック教義の番人に就任したミュラー新教理省長官(バチカン放送独語電子版から)

 べネディクト16世が国務長官に次ぐ重要ポストの教理省長官にドイツ出身聖職者を任命したことでドイツ神学の影響が強まると予想されている。法王自身にとって、バチカンの重要ポストに信頼できる人物を配置することで、職務がスムーズにいくというメリットが期待できる。 

 ちなみに、レヴェイダ枢機卿(76)は辞任理由として高齢を挙げたが、前任の教理省長官、ヨーゼフ・ラッツィンガー枢機卿(現べネディクト16世)と常に比較され、職務遂行が難しかったことが早期辞任に繋がったのではないか、と受け取られている。

 カトリック中央協議会の説明によると、教理省は「カトリックの教義および道徳の保持と促進を任務とする」という。教理省の前身は「異端裁判所」であったことを想起すれば、教理省の任務が一層明確になるだろう。

 聖職者の未成年者への性的虐待、バチカン内部文書の流出などで教会の基盤が大揺れに揺れている一方、世俗化の波に遭遇し、信者たちの教会離れ、聖職者不足などに直面、カトリック信仰が試練にある。そのような中、カトリック教義を守る一方、新しい宗教の台頭に対抗しなければならない。その最前線にあって責任を担うのがバチカン法王庁の教理省長官だ。だから、教理省長官の肩にカトリック教会の未来が掛かっている、といっても過言ではないだろう。
 
 ミュラー新教理省長官はミュンヘンのカトリック教義学の教授時代から故ヨハネ・パウロ2世に認められ、1997年にはローマ法王の神学シンクタンク、国際神学委員会メンバーに選出されている。2002年には司教に任命され、教理省メンバーの一員にも選ばれている。これまでべネディクト16世の神学著書の総編集を担当してきた。

 オーストリアのカトリック通信によると、ミュラー大司教を教理省長官に選出する際、バチカン内で抵抗もあったという。ミュラー大司教が解放神学の創設者グスタボ・グティエレスと個人的友好関係があるとか、根本主義組織「オプス・デイ」に近い神学者だ、といった憶測が流れていたからだ。しかし、べネディクト16世はバチカン内の反対を退けてミュラー大司教を選んだわけだ。ドイツ司教会議(DBK)のロベルト・ツォリチィ議長は「ミュラー新長官は卓越した神学者だ。ドイツ教会にとっても光栄だ」と歓迎を表明している。

 ミュラー新長官が急務に解決しなければならない課題はカトリック教会根本主義聖職者組織「ピウス10世会」(聖ピオ10世会)の教会再統合問題だ(「山場迎えた『ピウス10世会』問題」2012年6月17日参照)。同時に、。オーストリア教会でヘルムート・シューラー神父を中心に300人以上の神父たちが女性聖職者の任命、聖職者の独身制廃止、離婚・再婚者の聖体拝領許可など7項目を要求、教会指導部への不従順を呼びかけた「不従順への布告、神父たちのイニシャチブ」運動への対応だ。