世界では目下、現職の女性首相(元首)の数は16人だ。地域的に見ると、アジア地域でインド、タイ、バングラディシュの3国で女性指導者がいる。日本人にはオーストラリアのジュリア・ギラード首相の名前がポピュラーだろう。欧州では、何といってもアンゲラ・メルケル独首相だ。その他、リトアニア、スイス、デンマーク、アイスランドで女性リーダーが活躍している。

 
_AND0382
▲オーストリアのファイマン首相(右)と会談するメルケル独首相(2012年1月19日、ベルリンで)=オーストリア連邦首相府、提供

 ここでは女性指導者の資質や品格を述べるつもりはない。女性指導者の代表的な政治家メルケル独首相の近況を報告したいのだ。「世界で最も影響力のある女性」に選出されたこともあるメルケル首相は2000年以降、欧州の盟主ドイツの指導者として輝かしい足跡を残してきた。特に、欧州の財政危機が表面化し、ギリシャの破産危機が囁かれだして以来、メルケル首相の動向が報じられない日は皆無といわれるほど、その言動は欧州の未来を左右してきた。例えば、財政協定を締結するにも、意見の対立がある欧州連合(EU)加盟国の調整には、独首相の落ち着いた自信溢れる指導力が不可欠だった。

 ところが、旭日昇天の勢いだったメルケル首相の周囲にも陰りが見え出したのだ。いつから、と質問されれば、即答は難しいが、サルコジ前仏大統領を支援し、パリまで選挙応援に駆け回った頃から、かもしれない。世論調査で敗北が予想されていた仏大統領を支援し始めたことが運の尽きだった、かもしれない。

 財政協定の再考を主張してきた社会党候補者フランソワ・オランド氏が予想通り、大統領に就任。その直後、メルケル首相はドイツ州議会選挙で自党が敗北し続けた。特にドイツ最大州のノルトライン・ウェストファーレン州議会選挙(5月13日実施)で大敗北を喫し、来年に実施される連邦議会選挙に赤信号が点った。それだけではない。選挙後、メルケル首相が与党キリスト教民主同盟(CDU)の筆頭候補者ノベルト・ロットゲン現環境相を更迭したことで、メルケル首相のイメージは取り返しのつかないダメージを受けた。脱原発の立役者であり、メルケル首相とエネルギー問題で連携してきた人物をあっさりと解任した首相にCDU内でもショックが流れたほどだ。

 旧東独出身のメルケル首相は賢明で冷静な政治手腕で久しく尊敬を受けてきたが、環境相の解任が報道されると、首相のイメージは大きく震撼。自身の権力に固守する狡猾な政治家、といったイメージが浮かび上がってきたのだ(独週刊誌シュピーゲル)。

 CDU内で過去、保守派の代表格が次々と辞任したり、引退したが、メルケル首相の人気だけは不動だった。その首相の支持率が後退し始めた。その一方、CDUは政党の第1党争いで社民党(SPD)の追い込みを受けて、その差は1ポイントとなった。

 数カ月前まではSPDもメルケル首相の人気の前に戦闘意欲を失っていたが、首相の失点を受け、次期選挙で与党に復帰できるといった期待を膨らませてきた。独の政界の動向は連邦議会選挙を来年に控え、流動してきたのだ。
 それだけではない。連立政権のパートナー政党、自由民主党が息を吹き返してきた。メルケル首相の言いなりになってきた同党が首相の緊縮政策に反対するシナリオも考えられる。

 欧州の政治舞台で縦横に活躍してきたメルケル首相だったが、オランド氏の登場でもその主役の座も揺れだしてきた。政治生命の危機に直面したメルケル首相の“次の手”が注目される。いずれにしても、いま、ドイツの政界が面白い。