国際原子力機関(IAEA)の定例理事会は来月4日から5日間の日程でウィーン本部で開かれる。35カ国の理事国から構成された同理事会の焦点はやはりイランの核問題だ。IAEAは2003年以来、イランの核問題を協議してきたが、未解決問題は依然山積する一方、同国が核兵器製造を目指している疑いが深まってきた。

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▲来月4日から定例理事会が開催されるIAEA本部(2011年9月撮影)

 3月理事会では、イラン側が欧米理事国の決議案提出の動きに先手を打ち、パルチン軍事施設への査察を認めると発表(5月現在、まだ実行されていない)。それに呼応するように、国連安保理常任理事国にドイツを加えた6カ国がイランの協議再開の要請を受け入れると発表したことで、欧米理事国の決議案提出の動きは白紙に戻され、イランの出方を6月の理事会まで注視することになった。
 欧米理事国からは「イランにとってラスト・チャンスだ」と警告を発する声も飛び出した。記憶の良い記者ならば「昨年11月もそのような警告があった」というだろう。イランの核問題では不思議と「これがラスト・チャンスだ」という言葉が頻繁に発せられてきたが、実際は「最後のチャンス」はその後も発せられてきた。


 警告を発しながら、その内容を実行に移さない場合、その警告は空言葉だ。警告を受ける側も「はい、はい、最後のチャンスですね」と、不真面目な態度で聞き流すようになる。ちなみに、北朝鮮とのやり取りでもそれにかなり酷似した展開があるから、イラン問題での「最後のチャンス」は決して新しい現象ではないわけだ。


 イランは理事会開催前や6カ国との協議前には必ずといっていいほど新提案を提示し、譲歩と対話の姿勢をちらつかせる。それが時間稼ぎだと分かっていても欧米側はテヘランとの協議に応じる。ちょうど今回のようにだ。イランは今月に入り、IAEAとの協議を行い、21日には天野之弥事務局長をテヘランに招き、23日からはイラクの首都バグダッドで6カ国協議が再開される、といった具合だ。


 夏季休暇前の最後の定例理事会が6月上旬始まるが、イランが協議に応じているので理事会では余り強い姿勢でテヘランに臨むことはできない。だから、理事会ではいつもと同じような文面の議長総括が採択されて終わり、9月の理事会、総会まで休会に入る。その間、、イランはウラン濃縮関連活動を拡大し、20%の濃縮ウランの製造を加速していくだろう。


 「ラスト・チャンス」という言葉が単なる外交上の表現に過ぎないことが明らかになってくると、イランの核問題をフォローする記者団も次第にしらけてくる。そのような中、最近のイスラエルの静けさが不気味さを増す。忘却が禁句の民族、イスラエルは欧米側がイランに発した「ラスト・チャンス」という発言を忘れないだろう。だから、イランが欧米諸国の動向以上にイスラエルの動きに神経を尖らすのは当然のことだ。