駐オーストリアの北朝鮮大使館(金光燮大使)で先日、故金日成主席の生誕100年祝賀会が開催されたが、大使館の掲示板には金主席の功績を称える写真がいつものように掲載されていた。その中で通称「金日成花」(キムイルソンファ)と呼ばれるピンク色の可愛らしい花の写真があった。故金主席のイメージとその花の可憐さがかみ合わない感じはするが、その不調和感を忘れさせるほど、その花は4月の季節に融け込み、やさしさを周囲に放っていた。


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▲金日成花(ウィーンの北朝鮮大使館の写真掲示板から、2012年4月撮影)


 当方は事務所に戻り、その「金日成花」について調べてみた。金正日花など独裁者の名前のついた花が存在することは知っていたが、どのような花でその外観については全く知らなかった。独裁者で多くの人民を粛清した北朝鮮指導者の名を冠する花、ということで、その花の美しさを無視することは、公平ではない。それほど、金日成花は華麗で春の季節にマッチしている。


 インドネシアのスカルノ大統領が1965年、同国を訪問した金日成主席に対し、同国の植物学者が交配育種したラン科セッコク属の花の名前に主席の名前を付けたいと申し出たことから;金日成花が生まれた、という話が伝わっている。ただし、スカルノ大統領がその直後失脚したため、その花が北朝鮮に運ばれたのは1974年だったという。


 5年前、北大使館の中庭にあったスモモ(李)についてコラムを書いたことがある。スモモがいつ頃、植樹されたかは知らないが、小さな薄白色の花びらが垣根を越えて路上までその可憐な姿を見せていた。スモモはオオヤマレンゲ(木蓮の一種)らと共に北朝鮮の代表的な花だ。花びらは桜の花びらに似ている。木蓮のように強い存在感はないが、その清爽感がとてもいい。梅が終わり、桜が咲き出す頃、桜と同じような白色の花びらを開く。
 オーストリア応用美術博物館(MAK)で2010年5月19日から9月5日まで、北朝鮮の芸術作品が展示された。同展示会は「平壌民族ギャラリー」とMAKの共催で開催されたが、展示会の副題は「金日成主席への花」となっていたことを思い出す。

 朝鮮中央通信社(KCNA)によると、金日成主席の生誕100周年を祝賀して開幕された第14回金日成花祭典が今月20日、閉幕した。 同祭典には30余万人の来場者があったという。


 北朝鮮は3回目の核実験を準備中というニュースが流れてくる。大量破壊兵器の実験はあの「金日成花」の世界とは一致しない。