ドイツ出身のべネディクト16世は16日、85歳の誕生日を迎えた。19日には、第265代法王就任7年目の筋目を迎える。

1_0_579802
▲法王就任7年目を迎えるべネディクト16世(バチカン放送独語電子版のHPから)

 世界に約12億人の信者を抱える世界最大キリスト教宗派のローマ・カトリック教会最高指導者となったべネディクト16世は、コンクラーベ(法王選出会)で選出された時、既に78歳の高齢だったこと、バチカン高位聖職者たちが27年間続いたヨハネ・パウロ2世(在位1978年10月16日〜2005年4月2日)の長期政権に少々疲れていたこともあって、ショート・リリーフ役の法王として選出され、本格的な法王はべネディクト16世後、というのが大方の予想だった。しかし、ドイツ人の法王は就任7年目を迎え、本格的なローマ法王の風格が漂いだした、という声も聞かれる。

 バチカン法王庁教理省(前身異端裁判所)長官を長く務めてきたべネディクト16世には就任当初から“教理の番人”というイメージが付きまとってきた。法王の選出時、教会内の改革派からは失望感が聞かれた。世界的神学者ハンス・キュンク教授はあからさまにその失望感を吐露しているほどだ。改革派には、超保守派の法王誕生で第2バチカン公会議から始まった「教会の近代化」が後退するのではないか、といった危機感があった。

 それでは過去7年間でその懸念はどうなっただろうか。ヨハネ23世(在位1958年10月28日〜63年6月3日)が主導し、パウロ6世(在位63年6月21日〜78年8月6日)が遂行した第2バチカン公会議(62〜65年)ではラテン語礼拝の廃止、他宗派との対話促進(エキュメニズム)などの教会の近代化が決定された。今年は同公会議が開幕して50年目を迎えた。
 ベネディクト16世は2009年1月、カトリック教会根本主義者故ルフェーブル大司教の聖職者グループ「兄弟ピウス10世会」の4人の司教の「破門宣言撤回」の教令を出した。それに先立ち、ラテン語ミサ=トリエント・ミサの復活を承認した法王答書を公表。その後、バチカンは「兄弟ピウス10世会」との関係正常化交渉を続けている。
 べネディクト16世には「第2バチカン公会議の教会近代化」に強い不信感がある。教会は近代化したが、その結果、社会はキリスト教化されず、世俗化しただけだ、といった疑問だ。同16世は「われわれは時代的要請に心を砕くのではなく、イエスの教えに戻るべきだ」と述べ、真理の絶対性を主張し、「価値の相対主義」には強い嫌悪感を持ってきたことは周知の事実だ。

 べネディクト16世は、前任者、ヨハネ・パウロ2世とは明らかに異なった道を歩んできた。優れた外交センスで直ぐに“メディアの寵児”となったパウロ2世とは違い、就任直後からさまざまな不祥事やハプニングを体験している。
 法王就任年の9月、訪問先のドイツのレーゲンスブルク大学の講演で、イスラム教に対し「モハメットがもたらしたものは邪悪と残酷だけだ」と批判したビザンチン帝国皇帝の言葉を引用したため、世界のイスラム教徒から激しいブーイングを受けた。世界のエイズ感染者の67%を抱えるアフリカ訪問(09年3月)では、「コンドーム無用論」を発して、リベラルなメディアからバッシングにあった。
 また、法王は「兄弟ピウス10世会」の4人の司教の「破門宣言撤回」の教令を出したが、4人の司教の中にホロコーストを否定した発言をした聖職者(英国のリチャード・ウイリアムソン司教)が含まれていたことから、世界のユダヤ人から激しい非難を受ける羽目となった。
 10年に入ると、アイルランド教会を皮切りにドイツ、オーストリア、スイス、オランダ、ベルギーなど欧米各地の教会で聖職者の未成年者への性的虐待事件が発覚し、欧州キリスト教社会は大揺れとなったことはまだ記憶に生々しい。
 
 学者法王のべネディクト16世は「信仰と知性」の統合をライフワークに「信仰の危機」の克服に乗り出しているが、肝心の教会では聖職者不足、信者たちの教会離れが加速化し、悩める羊たちを教会に引き戻す解決策を見出せない状況だ。欧米社会では社会の世俗化が進み、公共施設の「十字架論争」が勃発するなど、キリスト教の信仰の要である「十字架信仰」も揺れだした。同16世を取り巻く状況は限りなく、厳しいわけだ。

 べネディクト16世の実兄ゲオルグ・ラッツィンガー氏(88)は今月4日、「弟はバイエル(独バイエルン州マルクトム・アム・イン生まれ)を再訪することはもはやないだろう。体力を消耗する訪問を制限しなければならないからだ」と弟の健康を心配している。実兄によれば、ベネディクト16世は過去3度、軽い脳卒中の発作に見舞われている。
 ラッツィンガー枢機卿が第265代法王に選出された時、実兄は「心労が重なる法王職を務めることは無理ではないか」と懸念を表明したほどだ。具体的に、2年前、訪問先のマルタのフロリアナで礼拝中、べネディクト16世は瞬間、前屈みとなり、眠り込んでしまった。驚いた周りの者が法王をそっと起こすというハプニングがあった。

 教会が直面している課題は山積する一方、高齢の法王に残された時間は限られている。聖職者の独身制見直しやキリスト教の統一などの抜本的な改革は、やはり、次期法王の選出まで待たなければならないだろう。