当方は先日、「枢機卿と同性愛者の教区評議会」(2012年4月3日)というコラムを書いたが、その後、予想外の急展開が出てきた。そこで書き手の義務として、その続報を読者に報告しなければならない。

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オーストリア・カトリック教会の精神的支柱、シュテファン大聖堂(2011年7月撮影)

 オーストリアのニーダーエストライヒ州のシュトッツェンホーフェンで3月18日、教区の評議員会選出が実施され、26歳の同性愛者の信者が選出されたことから、同国で大きな波紋を投じた。教区の神父は当時、「教会法では同性愛者の評議員入りは容認できない」と主張し、「罪の中で生活している」同性愛者の評議員会入りを容認できないと表明。同国カトリック教会最高指導者シェーンボルン枢機卿もその段階では神父の見解を支持した。ところが、同枢機卿はその後、「自分は同性愛者の評議員会入りに反対の見解を明らかにしたが、考え直して、その青年に会ってみたくなった。青年を昼食に招き、語り合った。青年は人間的に立派であり、キリスト教の信仰を有していることが分かった。教区の信者たちが青年を支持した理由も理解できた」と述べ、「教会法では問題があるが、青年の評議員選出を受け入れる決意をした」と表明した。

 次はその後の続報だ。教区の神父は枢機卿が同性愛者の教区評議員を承認したことに不満を持ち、教区の神父職を辞任すると表明した。聖職者の中には同性愛者に対して同神父のような立場を取る者は少なくない、その意味で、神父の辞任表明はその信念に基づくものと受け取られた。問題はその数日後だ。12日付の同国日刊紙クリアは「神父の元愛人」とのインタビューを掲載し、そこで元愛人が神父と3カ月余り愛人関係だったことを告白したのだ。彼女は告白の動機を、「神父が同性愛者を罪の中にあると批判したことを聞いて、神父の偽善な態度が許せなくなったから」という。神父は前の教区(Pressbaum)でこの女性と知り合っている。

 一方、同性愛者を承認した枢機卿もその直前、神父に電話で「同性愛者を評議員選リストから削除せよ」を要求していた内容が暴露された。それだけではない。ザルツブルクでは同性愛者の教区評議員が既に存在していることも明らかになった。シュトッツェンホーフェンのケースが初めてではなかったのだ。教会側は教会法では認められないと公式表明する一方、同性愛者の評議員を久しく黙認してきた事実が浮上してきたわけだ。

 小さな教区が投じた波紋が今日、同国教会全体を震撼させるほどの大きな波紋となってきた。同国日刊紙エーストライヒは13日付のトップに「神父の3人に一人は愛人がいる」という記事を報じ、「オーストリアに約3300人の神父がいるが、少なくとも1000人の神父には愛人がいる」という教会関係者の発言を紹介している。
 カトリック教会の独身制は現実では久しく形骸化しているが、バチカン側は教会法の建前を繰り返し、問題が起きない限り、「聖職者の現実」を黙認してきたわけだ。オーストリア国営放送は先日、「教会の危機」というタイトルで討論番組を流したが、実際は「危機」ではなく、「崩壊」という言葉のほうが教会の現状を正しく表現しているだろう。