newsimage ヨルダンのハッサン・ビン・タラール王子は首都アンマンで開催された「中東のキリスト信者はどこへ」というタイトルの会議で中東の少数派宗派の保護を明記した「アラブ社会憲章」(Arabischen Sozialen Charta )を提案した。
 王子は2008年度第25回庭野平和賞を受賞するなど、これまで世界宗教の連携と宗派間の対話を推進する活動を展開してきた。国連の「文明間の対話」メンバーの一員として活躍してきた中東の代表的知識人の一人だ。
 アンマンの会議はタラール王子が1994年に創設した「宗教間対話のためのヨルダン王立研究所」が主導し、シリア正教会、キリスト教アナバプテスト派(再洗礼派)中央委員会が共催して開かれた。会議には、ヨルダン、シリア、レバノン、パレスチナ、イラク、エジプト、スーダン、イランから宗教家、政治家、学者などが参加した。
 タラール王子は中東地域でキリスト信者たちが迫害される状況に心を痛め、少数宗派の改善をアピールする一方、中東のキリスト者に対しては「どうか留まってほしい。われわれはあなた方を必要としている。あなた方はアラブ社会に所属する」、「アラブのキリスト者はアラブ人であり、アラブ思想とアラブの刷新のパイオニアだ」と述べ、「キリスト者が留まる事が出来るためには、アラブ諸国の中にはその憲法を改正しなければならない国がある。キリスト者も真の国民であることを認知しなければならない。少数派宗派の国民の権利尊重が欠如している点がアラブ社会の弱点だ」と主張している。
 王子によると、「アラブ社会憲章」の内容は1948年の国連人権宣言の内容と同じだ。残念ながら、アラブ諸国では「国連人権宣言」の内容はこれまで履行されなかった。イスラム教は全ての人間は平等と教えるが、コーランを読むと、イスラム教徒と非イスラム教徒の相違、男性と女性の違いが強調されている箇所が少なくない。そして多くのイスラム教徒はその教えに従ってきた。
 例えば、カイロのイスラム教スンニ派の最高権威機関アズハルによると、イスラム教からキリスト教やユダヤ教への改宗は死刑に値する。無神論者の権利も無視されている。サウジアラビアのイスラム教最高指導者、シェイフ・アブドルアジズ・アルシェイフは先日、アラブ半島にあるキリスト教の教会を全て破壊するように指令を出し、物議を醸し出している、といった具合だ。 
 コーランは西暦700年頃のアラブの砂漠時代を反映した内容だ。だから、21世紀に適した「アラブ社会憲章」が必要となる、という提案は非常に現実的であり、説得力がある。「アラブ社会憲章」がアラブ人の知識人から出てきた、という点で革新的な提案といえるだろう。

★写真は「アラブ社会憲章」を提案するヨルダン王子=独バイロイト大学のサイトから