健在だったら今頃、北朝鮮国内外で盛大な70歳誕生の祝賀会が挙行されただろうが、昨年末、急死したこともあってその祝賀会も縮小気味という。

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▲駐オーストリアの北大使館写真掲示板から「昨年8月、軍視察中の故金総書記」 2012年2月14日撮影

 今年は4月15日の故金日成主席生誕100年祭が控えている。北には両者の祝賀会を大々的に開催する財力がない。「どちらを盛大に祝うか」と考えた場合、大多数の北国民は2月16日の光明節より4月15日の太陽節のほうを選ぶだろう。
 14日午後5時(現地時間)、駐オーストリアの北大使館(金光燮大使=Kwang Sop KIM=金総書記の義弟)でも故金正日総書記の生誕70年祝賀会が開催された。
 オーストリアでも「墺太利・北朝鮮友好協会」の古いメンバーは「故金主席時代は良かった」というのが口癖だ。そして「息子(故金総書記)の時代に入って全てが悪くなった」と考えている。
 その息子金総書記が死去し、さらにその息子金正恩氏が政権を相続した今日、「故金主席の孫は大丈夫だろうか」と懸念顔で呟くメンバーが少なくない。
 金主席の死後、金総書記は17年間余り長期政権を維持してきたが、その割には、その存在感は父親の故金主席よりかなり見劣りする。
 2代目の宿命かもしれないが、創始者と3代目の挾間にあって、2代目は影が薄い。国民から忘れられるのも早い。金総書記が亡くなってまだ2カ月しか経過していないが、数年前に亡くなったような錯覚すら覚えるほどだ。
 北大使館の故金総書記生誕70年祝賀会に招かれたゲストたちの関心事も若き指導者・金正恩氏の動向に集中している。オーストリア内務省関係者が祝賀会に出席するのも後継者に関する情報収集のためだ。
 金総書記のことを考えている者はいない。北全土で故金総書記の銅像が建立され、「大元帥」の称号が与えられたとしても、同総書記への記憶は時間のテンポを凌ぐ速さで忘れられていく。歴史が「国民の為には何もしなかった独裁者」として記憶するだけだろう。
 ちなみに、同大使館前の写真掲示板には、故金総書記の功績が称賛されていた。そこでは「先軍政治」が強調され、同総書記の遺産としては「人工衛星」と「核兵器」の2点が挙げられていた。両者とも飢餓に苦しむ北の国民にとって価値なきものだ(「金正恩氏が相続した“2大遺産”」2012年1月1日参照)。
 北国内で推進されている故金総書記の神格化、偶像化は「忘却」に対する勝算なき挑戦に過ぎない。