国際原子力機関(IAEA)担当のイランのソルタニエ大使は昨年11月、天野之弥事務局長が理事国35カ国に提示した「イラン核報告書」について、「これまで報告された情報の寄せ集めに過ぎない。新しい情報はない」と主張し、「イランの核計画が軍事転用の疑い有り」と明記したIAEA報告書を「政治的動機に基づいて作成されたもの」と一蹴したことはまだ記憶に新しい。
 ところで、11月の報告書を「既報の情報の集合に過ぎない」というイラン大使の発言をIAEAの専門家が漏らしたならばどうだろうか。それも天野事務局長の最高ブレインの一人であり、核関連兵器専門家の人物が発言したらどうだろうか。
 IAEAハイレベル代表団の一員として今年1月末、イランを訪問したフランス人のジャック・ボット氏(Jack Baute)は先日、IAEAの元査察官に対し、「君も知っているだろうが、11月のイラン核報告書の内容は新しいものではない。既に知られてきた情報だ」と呟いたのだ。当方は後日、元査察官から直接、聞いた。同氏はソルタニエ大使の主張が間違いでないことを認めたのだ。
 天野事務局長は11月の理事会で「イラン関連情報は独自に入手した他、加盟国の情報機関から入手したものが含まれている」と指摘し、「10カ国の加盟国」から情報を入手したと説明してきた。
 しかし、それらの情報の多くは「2005年までに知られていた内容だ。IAEAが入手する核関連情報は米国とフランスの両国情報機関からが最も多い」という。
 天野事務局長は昨年11月、「過去の情報の寄せ集め」のイラン報告書をまとめて理事会に提出し、イランの核軍事転用容疑を国際社会にアピールしたが、「何故、この時期にイランの核軍事転用容疑を提示し、国際社会にイランの核問題を警告したのか」という点は明らかではない。ひょっとしたら、IAEAの「11月報告書」は何らかの政治的計算に基づいて公表されたのかもしれない。
 もちろん、イラン側は核計画の全容を開示し、その平和的目的を国際社会に実証すべき義務があることはいうまでもない。
 なお、IAEAは3月5日から5日間の日程で定例理事会を開催する。焦点はイランの核問題だ。それに先立ち、IAEAとイラン当局は今月20日、テヘランで核協議する。