北朝鮮の「音楽政治」は金正日労働党総書記時代、有名になった。当方もこの欄で数回、金総書記の音楽への造詣を紹介したことがあった。
 北関連のサイト「ネナラ」ニュースは2008年1月11日、「外国の友人たちの称賛の声」と題して、金総書記の「音楽政治」について説明している。それによると、「金総書記は音楽によって千万軍民を奮い立たせ、社会主義強盛大国の建設において大きな成果を収めるように導いている」という。ロシアの作曲家、ニコライ・ドルジェンコフなどは「偉大な金総書記は音楽によって大衆の心の琴線に触れる独特な政治を行っている。総書記の音楽政治は百戦百勝の保証となっている」と絶賛している。
 当方が住む音楽の都ウィーンでは過去、50人余りの北朝鮮音楽学生がウィーンの名門音楽学校に通っていたが、国民への監視強化策が実施されると共に、海外留学生の亡命防止もあって、ほぼ全ての音楽学生たちは帰国を命じられた。その後、北の音楽学生の姿は見られなかった。
 ところが、最近、15人の音楽学生がウィーンで1年間、留学中という。ピアノやバイオリンではなく、今回はハーモニカ留学だというのだ。北の「音楽政治」が今、ハーモニカに集中しているわけだ。
 「北朝鮮とハーモニカ」の関係が最初はピンとこなかった。北にハーモニカを紹介したパイオニアはウィーン音楽大学でハーモニカの教鞭をとっているイザベラ・クラップ女史(Isabella Krapf)だということが分った。
 同女史は昨年7月8日から30日まで3週間、北の文化省の招請を受けて平壌の「クロマティックハーモニカ学校」で15歳から20歳までの約110人の学生たちにハーモニカを教えてきた。3週間の練習後、生徒たちはコンサートを開催したというから、相当上達したわけだ。
 同女史は「北朝鮮には私の生徒がハーモニカを学んでいます」と誇りを持って語る。同女史はこれまで2回、ハーモニカの教鞭のために訪朝している。
 北でハーモニカが人気を呼び理由について、女史は「ハーモニカが他の楽器と比べて安価だという理由もある。その上、ピアノやバイオリンといった楽器と違って珍しさも若者をひきつける要因となっているかもしれない」と説明する。
 ハーモニカは1820年頃、オルガンの調律用として使用され、19世紀半ば、ウィーンで人気を博したという。その楽器が今、平壌で“静かなブーム”を呼んでいるわけだ。