少し遅れたが、今月10日公表された2011年オーストリアのローマ・カトリック教会信者脱会数を紹介する。
 昨年の教会脱会者数は5万8603人だった。聖職者の未成年者への性的虐待事件が発覚した2010年は戦後最高の8万5960人の信者が教会から背を向けたが、昨年はその教会脱会者の波も一休みといったところだ。それでも年間5万人以上の信者が教会から離れたという事実は重たい。戦後2番目に多い数だ。
 オーストリアのカトリック信者数はこれで約541万人となった。前年(545万人)比で0・8%減少。ちなみに、ウィーン大司教区の信者数は昨年、126万9745人。教会脱会者数は1万6941人だった。10年は2万5314人の信者が脱会した。
 教会関係者は一様に昨年の脱会者数が前年比で約32%減であったことにホッとしている。同国の司教会議広報担当パウル・ヴーテ氏は「脱会者数が前年比で急減したということは、教会が再び信頼性を回復できた徴だ」と指摘し、その背景として、「聖職者の未成年者への性的虐待問題への明確な対応が評価された」と述べている。
 しかし、教会が信者たちの信頼を本当に回復したのかはまだ速断できない。はっきりしている点は、過去2年間で14万人の信者が去ったという事実だけだ。
 例を挙げて考えてみよう。元FIチャンピオンのニキー・ラウダ氏は昨年教会に復帰した。その理由は「娘の洗礼」問題がある。洗礼を受けないと今後の娘の成長にマイナスとなる、という判断がラウダ氏にあったという。同氏の場合、神への信仰云々は問題ではない。社会での慣習が重要なのだ。それを教会側が「教会の信頼が回復してきた結果」と受け取るならば、大きな間違いを犯すことになるだろう。
 聖職者の未成年者への性的虐待問題が1年経てば忘れられると安易に考えるならば危険だ。教会への不信感はボクサーのボディー・ブローのようなものだ。時間が立てば効いてくる。
 さて、今年は聖職者の未成年者への性的虐待問題の対応だけではない。教会刷新運動の動向が気になる。オーストリア教会では昨年、ヘルムート・シューラー神父を中心に300人以上の神父たちが女性聖職者の任命、聖職者の独身制廃止、離婚・再婚者の聖体拝領許可など7項目を要求、教会指導部への不従順を呼びかけた(「不従順への布告、神父たちのイニシャチブ」運動と呼ばれる)。信者たちの教会改革運動はあったが、聖職者の改革運動は初めての事だ。
 ちなみに、今年はローマ法王ヨハネ23世(在位1958年10月28日〜63年6月3日)が教会一致(エキュメニズム)や教会の近代化を決定した第2公バチカン会議を招集して50年目を迎える記念の年だ。いずれにしても、教会改革運動は今年、正念場を迎えることになるだろう。