来年11月に実施される米大統領選で選出された新大統領は前大統領から核のボタン(発射許可ボタンなど)が入った機密入りアタッシュケースを引き継ぐといわれている。一方、金正日労働党が死去した北朝鮮で新指導者が前任者から継承するものは、海外資金の保管先銀行名とその口座番号だ。
 それでは金総書記の後継者、三男の金正恩氏は父親が亡くなる前にその海外資金の口座番号などを継承しただろうか。
 金総書記は数日間、死の床にあった、といわれているから、銀行口座番号などの金ファミリーの極秘情報を後継者の正恩氏に伝える時間があったかもしれない。
 もし、その答えが「イエス」だったら、40億ドルと推定される金ファミリーの海外資金の鍵は金正恩氏の手に渡ったとみていいだろう。「ノー」の場合、すなわち、金総書記が死去前にファミリーの機密を正恩氏に伝達できなかった場合、金ファミリーの巨額の海外資金はそれを保管する人物が依然、握っていることになる。
 その保管人の一人は、正恩氏の後見人、張成沢国防委員会副委員長だ。
 当方は昨年、「北の海外資金の所有者が変わった?」(2010年4月3日)というコラムで海外資金口座の新オーナーとして、金正恩氏と金総書記の義弟(妹・金敬姫氏の夫)張成沢氏の2人の名前を挙げた。
 ちなみに、張成沢氏は一昨年春、欧州3国(フランス、イタリア、スイス)を密かに訪問したが、その訪問目的は、金融危機に直面する欧州の銀行に保管した金ファミリー隠し資産の動向を直接、掌握するところにあったといわれる。
 張氏は金総書記が脳卒中で倒れた直後、海外資金の管理に乗り出そうと動いているのだ。
 金総書記が亡くなった今日、張氏は海外資金の存在とそれに関連する機密情報を正恩氏に少なくとも伝達しなければならない。
 金総書記は過去、党・軍幹部たちの人心を掌握するために、海外資金の一部で高級車、高級時計、ワインなど贅沢品を調達して、幹部たちに贈ってきた。
 正恩氏がその海外資金を掌握できなければ、党・軍幹部の正恩氏離れが出てくることは必至だ。換言すれば、正恩氏が海外資金を掌握できなかった場合、同氏の政権は短命で終わる可能性が出てくるのだ。