アルプスの小国オーストリアにもクリスマス・プレゼントが届いた。格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービス米格式会社が23日、オーストリアの国家財政状況を最高点の「AAA」、すなわち従来のトリプルAとして、懸念されていた格下げをしなかったのだ。このニュースが伝わると、政府関係者は「グット・ニュースだ」と大歓迎。格下げが行われたら、政府が借りる資金の利子が高くなり、年間で10億ユーロ以上の追加負担となるからだ。スタンダード・アンド・ブアーズ社が今月5日、格下げの可能性を示唆すると、オーストリアでは一種のパニック現象すら起きたほどだ。それだけに、トリプルAの維持は大きな節約となる。政府関係者が喜ぶのは当然だ。
 その最高に財政状況がいいと評価されたオーストリアでユーロが導入されて来年で10年目を迎えるが、国民の間で旧通貨シリングへのノスタルジーは依然強い。
 オーストリアは2002年、旧通貨シリングをユーロに切り替えるために移動両替バス(ユーロ・バス)を組織し、全土でシリングをユーロに代えてきた。そのトータルは約5億シリングにもなる。34万1000人が過去、ユーロ・バスを利用して切り替えてきたが、平均1人1448シリングという。
 「結婚のお祝い金が入った袋をもらったが、結婚式の混乱もあって忘れていた。その袋が今年見つかったのだ。中には8万シリングが入っていた。ビックリした夫婦は早速、ユーロ・バスで両替した」(オーストリア日刊紙クリア12月24日)という話も紹介されている。
 ユーロ導入以来、2100億シリングがユーロに両替されたが、89億シリング(6億5000万ユーロ)がまだ両替されず、回収されていないという。オーストリア中央銀行によると、「市場に流通していたシリングの3分の1は依然、両替されずに留まっている」と推定している。ちなみに、ユーロ諸国で最も強い通貨といわれたマルクをユーロに切り替えたドイツでも依然、133億マルクが回収されていないという。
 今年に入り、ギリシャを皮切りに欧州全土で金融危機が拡大、ユーロが大揺れとなった。対米ドル、対円レートでユーロ安は進行、ユーロの信頼感は大きく揺れた。マルクを誇っていたドイツでは、財政管理のできないギリシャなど南欧諸国とユーロを共有することに不安を持つ国民が増えてきた。同時に、マルクへの帰還といったノスタルジーも出てきている。隣国オーストリアでも同様だ。安定していた旧通貨シリングへの郷愁の声が特に、中高年齢者の間に強い。