バチカン放送独語電子版は23日、「ヨーロッパ人は孤独で悩んでいる」というタイトルの記事を掲載した。その理由として、欧州諸国が今年に入り、ギリシャを皮切りに程度の差こそあれ経済・金融危機下にあり、深刻な財政赤字に悩まされ、自信を失ってきたこともある。確かに、欧州の各政府は格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスの動向に一喜一憂し、国家の運営に戸惑いが見えだしてきた。メデイアは久しく「欧州危機」という呼称をつけて呼んでいる。
 ところで、今回の「欧州の危機」は経済分野だけではない、という話だ。ローマ・カトリック教会最高指導者ローマ法王べネディクト16世は22日、ローマ教会聖職者を前に「欧州は目下、倫理の危機に直面している」と警告する。ストラスブールの欧州評議会のバチカン常駐代表部、アルド・ギオルダノ大司教は、「欧州に不足しているのはアイデア、ビジョン、そして信仰だ。如何なる文明もその基盤となる信仰がなければ存在できない」と説明。そして「ヨーロッパ人は誰が自分の父親かを忘れてしまった。だから、自分が神の息子、娘だという認識も失ってしまった。必然的にヨーロッパ人は孤独となったのだ」というのだ。
 ちなみに、世界の文明圏が宗教を中心として形成されてきたことは歴史が証明している。キリスト教文明圏、イスラム教文明圏、ヒンズー教文明圏といった具合だ。そして欧州はもちろん「キリスト教文明圏」に属する。
 ギオルダノ大司教によれば、「ヨーロッパ人の寂しさ、孤独感は父親を失った結果、生じてくる。だから、父親を再発見して寂しさ、孤独感を克服しなけれならない」というわけだ。
 離婚が日常茶飯事の欧州社会では、両親が共にいる家庭で青少年時代を成長できる子供たちは、残念ながら少数派であり、片親のもとで成長していく青少年が過半数を占めている。父親を失い、母親がいない家庭で最も感受性のある青少年時代を過ごす。そして神への信仰も忘れていく。大司教の指摘は正鵠を射ているだろう。 
 欧州社会は物質消費文化を享受してきたが、経済・金融危機に直面し、その物質文化が揺らぎだした。繁栄がいつまで続くか分からなくなってきたのだ。「高齢社会の到来」、それに伴う従来の「年金システム」の崩壊だけではない。欧州のキリスト教社会は父親ともいうべき神を失いつつある。キリスト教会も放浪する羊たち(ヨーロッパア人)を導く生命力を失って久しい。
 「2012年は今年以上に国民経済は厳しい」と予測する経済学者が多い。産業革命を先行し、世界の歴史で主人公を演じてきたヨーロッパ人はこれまで体験したことがない憂鬱な時を迎えようとしているわけだ。
 桐島洋子著「寂しいアメリカ人」は1970年代の性の革命に翻弄される米国民の姿を日本人女性の目で描写したノンフィクションだが、「寂しいヨーロッパ人」は、物質消費文化を誇示してきたヨーロッパ文明が色褪せ、自信を失っていく一方、歴史の焦点が次第にアジア地域に移行していく予感を感じ、戸惑い始めているのだ。