当方はこのコラム欄で「ベルリンで自動車放火事件が多発」(2011年8月21日)という短信を紹介したが、放火犯の一人が21日午後、逮捕された。
 ベルリン警察当局(LKA)は23日、記者会見で「犯人は27歳の失業者。67台の車に放火し、35台を破壊した疑いがもたれている。監視ビデオを通じて犯人を割り出した」という。
 具体的には、犯人は今年6月に14回、7月6回、8月47回、車に放火を繰り返してきたという。
 警察側の発表では、犯人は失業中で不満が高まっていたこともあって、独車、特に、アウディ、BMW.メルセデス・ベンツなど高級車を選んで放火したという。放火犯人を追跡してきた警察側は、「裕福な市民への報復といった意図が感じられる」と分析してきたが、そのプロファイルはほぼ当たっていたわけだ。
 LKAのシュタイオフ警察長官は「現時点では放火事件の背後に政治的動機はない」という(ベルリンで今年に入り341台の車の放火を含め、合計470台の車が被害を受けている)。

 放火犯人は「一等地に住み、高級車を乗りまわす人間を羨ましく感じた」と語ったという。
 それに対し、独社会学者の一人は、「現代社会は他人の成功を羨ましく思い、他の人が自分より幸せだと感じた時、妬ましくなる」と指摘している。独語では‘Neidgesellschaft‘(妬み社会)と表現する内容だ。
 ロンドンで警察官の黒人男性射殺事件が契機となってイギリス全土に今夏、発生した暴動と略奪事件の背後にも、“待たざる者の持つ者への妬み”、恨みといった感情の暴発が見られたものだ。
 妬みはある意味で人間の自然の感情だろう。是非は別として、人は他者と比較する能力を有しているからだ。他の同僚が自分より上司から愛されていると感じた場合、同僚に対して妬ましく思う一方、上司に憎しみが湧いてくる、といった状況は到る所で考えられる。
 高級車をもち、一等地に住むことが“幸せの実証”ではないが、(何も持たない)放火犯人はそのように感じたのだ。
 いずれにしても、妬みという感情を克服し、昇華することは並大抵の業ではない。
 ちなみに、石川啄木の歌集「一握の砂」の中に、「友がみなわれよりえらく見ゆる日よ 花を買ひ来て 妻としたしむ」という有名な歌がある。