当方は今回のテーマを書かないでおこうと考えていた。理由ははっきりしていた。悲しい事件や悲惨な出来事があまりにも多い社会で、また一つ、新しい事件を読者に紹介することに気が進まなかったのだ。当方はこのコラム欄でも既に、2、3の想像を絶した事件を報告してきた。24年間監禁事件(「『娘監禁事件』への一考」2008年4月30日)や8年間監禁されてきた「ナターシャさんのインタビュー」(06年9月10日)などだ。しかし、読者に判断を委ねて、報告することにした。以下の事件は、ウィーンの孤児院での性犯罪事件だ。
 今月に入り、ウィーン市内のヴィルヘルミーネンベルク(Wilhelminenberg)の孤児院(Kinderheim)で1960、70年代、多数の子供たちが孤児院関係者ばかりか、外部の男性たちによって性的虐待や暴行を受けていたことが明らかになった。2人の孤児院出身者がメディア関係者に語ったことから判明した。
 孤児院は市が運営してきた。市関係者は、孤児院でどのような不祥事が生じていたかを知りながら、これまで何も対応してこなかった、という批判に晒されている。
 市側は今日、孤児院で暴行された犠牲者への賠償問題を取り扱う犠牲者保護委員会を設置する一方、事件の解明に乗り出しているが、既に40年前のことだ。多くの事件は時効となり、関係者の一部は既に亡くなっていることもあって、事件の全容解明は難しいのではないか、と予想されている。
 オーストリアのメディアは連日、孤児たちが大人たちにどのように扱われていたかを詳細に報じている。最近では、ウィーン市の孤児院だけではなく、第2都市のグラーツ市でも同様の不祥事があったという。ちなみに、ウィーン市だけも350人を超える孤児院出身者が犠牲者調査委員会に連絡してきているという。その数は急速に増加している。
 聖職者の未成年者への性的虐待事件が昨年、欧州各地で明らかになったばかりだ。そして今回、孤児院で同様の蛮行が判明したのだ。隠されてきた問題が次々と明らかになってきた。「時代」が私たちに過去の清算を強いているように感じる。