ノルウェーの大量殺人者、アンネシュ・ブレイビク容疑者はそのマニフェストの中でオーストリアの首都ウィーンを北上するイスラム教を防ぐ砦とした「ウィーンの門」について言及しているが、肝心のオーストリアのローマ・カトリック教会は増加するイスラム教徒対策ではなく、教会内の改革問題で目下、頭を悩ましている。

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▲オーストリアのローマ・カトリック教会の精神的支柱、シュテファン大聖堂=ウィーンにて、2011年7月撮影

 ヘルムート・シューラー神父(59)を中心に300人以上の神父たちが女性聖職者の任命、離婚・再婚者の聖体拝領許可など7項目を要求、教会指導部への不従順を呼びかけている(「不従順への布告、神父たちのイニシャチブ」運動と呼ばれる)。
 シューラー神父らイニシアチブ代表は先月、ウィーン大司教区でシェーンボルン枢機卿と会合し、7項目の要求を提出した、それに対し、同枢機卿は、「ローマ(バチカン法王庁)の路線に反するもので受け入れられない」と拒否、要求撤回と教会方針への従順を求めたという。
 当然の反応だろう。バチカン法王庁はこれまで女性聖職者の任命問題でも、「考えられない」と一蹴してきた経緯がある。ローマ法王ベネディクト16世の愛弟子の一人のシェーンボルン枢機卿が容認するはずがないからだ。
 同国ではインスブルック教区で信者たちの改革運動「われわれは教会」が生まれ、大きな改革運動に発展してきたが、今回は教会内の神父たちの改革運動という点で新しい。
 隣国スイスの23州(カントン)の1つ、ルツェルン州のローマ・カトリック教会団体の112メンバーが聖職者の独身制の廃止と女性の聖職者認知などを要求した「ルツェルン宣言」を発表したことがある。
 ローマ法王の出身国ドイツでも独与党「キリスト教民主同盟」(CDU)の著名な8人の政治家が1月21日、ベルリンで「カトリック教会の司教たちは既婚聖職者の聖職を認め、聖職者の独身制を廃止すべきだ」と公式表明した。同時期、228人の独神学者が聖職者の独身制の再考などをバチカンに呼びかける覚書「教会2011年、必要な出発」に署名している。
 オーストリア、スイス、ドイツなど独語圏を中心に教会刷新運動が広がっているわけだ。聖職者の未成年者への性的虐待事件が発覚して以来、バチカン主導の改革ではなく、信者たちや神父たちの改革意識が高まってきている。彼らに共通している点は、「教会はこのままでは存続できない」といった危機感が強いことだ。
 シェーンボルン枢機卿とシューラー神父らは今秋、再度会合するが、シューラー神父たちは「譲歩する考えがない」と主張している。それだけに、最悪の場合、教会が分裂される事態も予想される。バチカンの対応が注目される。

注・同改革運動のサイト www.pfarrer-initiative.at