イスラム暦に基づきラマダン(断食月)が1日から始まった。イスラム教徒にとって、ラマダンは、日に5回メッカの方向に向かって祈ること、生涯に1度メッカを巡礼することなどと共に「聖なる義務」に属する。幼少年、妊婦、病人以外のイスラム教徒はこの期間、日の出から日沈まで、飲食、喫煙、性生活を慎まなければならない。
 アラブ・イスラム諸国では通常、全ての国民が断食に入るから特別な感慨もないかもしれないが、欧州のキリスト教社会に住むイスラム教徒たちにとって、「ラマダンは自分がイスラム教徒だという自覚を深める機会」となるという。
 欧州には約1400万人のユーロ・イスラム教徒が住んでいる。彼らも断食し、太陽が沈むと自宅か、近所のイスラム寺院で断食明けの食事をする。知人・友人宅に招かれて食事をすることも多くなる。その意味で、ラマダン期間は親交を深める機会だ。キリスト教社会ではそのような機会は少なくなった。
 ラマダンの意義と価値について、スーダン出身の知人は、「ラマダン期間は日頃の物質的な思いから解放され、神と対面できる期間として非常に重要だ。普段だったら直ぐ怒りが飛び出すケースでもラマダン期間だと不思議と平静に対応できる。これもラマダンの影響ではないか」という。若い時より、年を取るほど、ラマダンの価値が理解できるようになったという。
 当方の周辺には、スーダン出身の知人のように熱心なイスラム教徒たちだけではない。断食をしないイスラム教の記者もいる。断食しないのに、イフタール(断食明けの食事)の席に平気で顔を出す度胸のあるイスラム教徒もいる。
 ところで、北欧社会ではイスラム教徒が少ないこともあって、イスラム教徒の動向にあまり関心が払われなかったが、オスロの大量殺人事件の容疑者が「反イスラム主義」を標榜していたと伝わると、北欧のイスラム教徒に関心が注がれ出した(イスラム教徒数はスウェーデンで約10万人、ノルウェーは10万以下だ。人口の2%にも満たない)。
 北欧のイスラム教徒にとって問題は、断食明け後の持ち時間が少ないという事だ。太陽が沈んでから、翌日太陽が昇るまでの時間だ。この間、食事ができる。サウジアラビアなど中東諸国では断食明けから次の断食開始まで10時間以上あるが、北欧では5時間あまりしかない、といった具合だ。
 世界のイスラム教指導者たちの間でも、「北欧のイスラム教徒がラマダンでは最も肉体的に厳しい」というテーマについて話し合われているという。
 「ラマダンの断食明けを統一すればいい」といった改革案から、「北欧のイスラム教徒は最も地理的に近いイスラム教国のラマダン明けに従えばいい」といった妥協案まで出ている。
 いずれにしても、今年のラマダンは今月29日(一部で30日まで)に終わる。その後、断食明けを祝う(イード・アル・フィトル)祭日が待っている。