ローマ・カトリック教会聖職者による未成年者への性的虐待事件を調査してきたアイルランド議会は20日、「バチカン法王庁は聖職者の性犯罪調査を妨害してきた」と指摘、バチカンを非難する声明文を採択した。
 同国のエンダ・ケ二ー首相は「バチカンが妨害した聖職者の性犯罪は十数年前の事ではなく、3年前だ」と批判、「国家と教会の関係は今後、再考を余儀なくされるだろう」と警告。同時に、一週間前に公表されたコーク教区の聖職者性犯罪報告書(300頁以上)に言及し、「バチカンはエリート意識と自己愛の文化に支配されている」と述べている。
 教会聖職者の未成年者への性的虐待問題で欧州連合(EU)加盟国の首相がバチカン法王庁を名指しで非難し、議会が非難声明文を採択したのはアイルランドが初めてで、まったく異例のことだ(アイルランド国民の約89%はカトリック教徒)。
 世界に約12億人の信者を有するローマ・カトリック教会総本山、バチカン法王庁はこれまで聖職者の未成年者への性的虐待事件がバチカン法王庁やローマ法王ベネディクト16世にまで波及しないように細心の努力を払ってきた。
 ベネディクト16世が聖職者の性犯罪を熟知しながら、それを隠蔽してきた疑いがあると米紙が報道した時(「米紙報道へのバチカンの『反論』」2010年3月27日、「ヨハネ・パウロ2世の『問題』10年4月29日)、バチカンは総力を動員してその報道のもみ消しに腐心した。今回はアイルランド議会がバチカンを「性犯罪隠蔽」の共犯者と述べたわけだ。そのインパクトは大きい。
 それに対し、アイルランドのカトリック教会ダブリン教区のマルチン大司教は20日夜、「コーク教区ではバチカンによって提示され、2001年から発効してきた『聖職者の性犯罪に関する規約』が無視されてきた」と述べ、責任はバチカンではなく、性犯罪を犯した聖職者が所属する教区(マギー司教)にあると主張する一方、「聖職者の性犯罪解明をバチカンが妨害した事実はない」と反論している。
 コーク調査報告書は、「聖職者の性犯罪に対応するために、未成年者への性犯罪は警察当局に告訴することになっているが、それが実行されていない」と述べている。そこで政府は今後、聖職者の未成年者への性的虐待事件を隠蔽した場合、刑罰を与える法の改正を施行するという。
 ちなみに、同国の著名な神学者ヴィンセント・トゥーミー氏(Vincent Twomey)は20日付のアイリッシュ・タイムズ紙の中で「全司教たちは辞任すべきだ」と要求している。
 なお、バチカンのロムバルディ報道官は21日、「聖職者の性犯罪という重要なテーマについては客観的に話すべきだ」と述べ、ケ二ー首相らアイルランド議会関係者に冷静を呼びかける一方、「バチカンは最適な方法でアイルランド政府の質問に答える予定だ」と表明している。バチカンの反応が注目される。