今月に入り、中国前国家主席の江沢民氏の死亡説が流れ、世界のメディアは一時大慌てとなった。同氏は依然、生存しているようだが、悪化した健康は予断を許さない状況という。
 ところで、同氏の死亡報道が流れた時、同氏から激しく迫害されてきた気効集団「法輪功」メンバーたちは歓喜したという。
 江沢民氏は国家主席時代、台頭する法輪功メンバーを監視する機関、通称「610公室」と呼ばれる組織を創設し、法輪功メンバーを迫害してきた。だから、「法輪功」メンバーからはこれまで憎まれてきた経緯がある(「610」公室という数字は創設された6月10日の日付から由来)。
 610公室は超法規的権限を有し、法輪功の根絶を最終目標としている。610公室のメンバーは都市部だけではなく、地方にも派遣されている。そればかりではなく、海外の中国大使館にも派遣され、西側に亡命した法輪功メンバーの監視に当たってきた。
 当方は2005年11月3日、 シドニー中国総領事館の元領事で同年夏、オーストラリアに政治亡命した中国外交官の陳用林氏(当時、37歳)と会見したことがある。同氏は「610公室」のメンバーだった。

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▲インタビューに答える陳用林氏(2005年11月3日、ウィーンにて)


 以下、陳用林氏との会見の一問一答の一部を読者に紹介する。

 ――亡命動機を説明してほしい。
 
 「一つは自由を求めてだ。14年間、外交官として生きてきたが、真の自由はなかった。いつも監視下にあったからだ。また、自分が政治亡命することで母国の民主化を促進させたいという願いがあった。駐シドニー総領事館では中国出身の同胞国民を監視することが私の任務だったが、それが耐えられなくなった。中国政府は政治亡命した私を『祖国の裏切り者』と批判するが、私は祖国から逃亡したのではなく、中国共産党から逃亡しただけだ。私が政治亡命したため、中国にいる家族が共産党の厳しい監視下に置かれていることは辛い」

 ――駐シドニー領事としての任務は具体的に何だったのか。

 「オーストラリアに居住する中国人を監視し、反政府活動する中国人の言動を北京に報告することだ。私は気功集団『法輪功』信者の監視を担当してきた。ちなみに、中国秘密警察『610号』高官がシドニーを視察した時、同高官は『約3万人の法輪功信者が収容所に入れられている』と語っていた」

 ――中国共産党について聞きたい。

 「中国共産党はわが国5000年の歴史を破壊した。共産党はこれまでに8000万人の同胞を殺害した。党幹部ですら、もはや共産主義を信じてはいない。かつては、海外訪問した時、その名刺に『中国共産党中央委員会第一書記』など肩書が誇らしく印刷されていたが、現在はどこそこの『会社総支配人』とか『マネージャー』といった肩書が書かれている。もちろん、架空会社だ。彼らは体制の危機を感じているため、資産を海外に密かに移したり、いざという場合に備え、2つの旅券を所持している。共産党からは大量の党員が離党している」

 中国反体制派活動家たちは「610公室」を中国版ゲシュタポ(秘密国家警察)と呼んでいる。その創設者の江沢民氏が今、死の床にある。