福島原発事故の現地調査(5月24日―6月2日)を実施し、懸命に復旧作業に従事する作業員たちを視察し、日本政府関係者たちとも会合してきた国際原子力機関(IAEA)の国際専門家査察団団長、英国原子力施設検査局主任検査官マイク・ウェイトマン博士(Mike Weightman)は21日、「原発の安全性向上で重要なカギは何か」という記者団の質問に、「安全性を向上させたいという熱情(パッション)だ」と、素早く答えた。

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▲国際専門家査察団ウェイトマン団長(右)=IAEA提供

 原発専門家から「パッション」(passion)という言葉を聞くとは予想もしていなかった当方などは、「なんと美しい言葉だろうか」と感動を覚えた。博士は原発事故の悲惨さを熟知しているはずだ。だから、「原発事故を解明し、事故が発生しない安全な原発を開発したい」という原発関係者の熱情を体現しているのだろう。
 同時に、博士は東日本大震災、津波で被害を受けた福島原発の現状と対応について、「客観的な評価が求められている」と強調することも忘れなかった。

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▲福島原発を視察する国際専門家査察団=IAEA提供

 事故は考えられないような“状況下”で発生した、と繰り返す。2万5000人以上の被災者を出した大震災下で生じた原発事故という立場を譲らない。「(研究のため)テーブル上に置かれた原発事故」という態度は決して見せない。核専門学者の前に一人の人間として原発事故の状況とその対応、課題点などを分析しようとしている。
 記者会見に参加した米女性記者は、「彼の英語は温もりがあった。感動したわ」と称賛し、「彼のような人物がIAEA事務局長に就任すればどれだけいいかしらね」と付け加えたほど、惚れ込んでしまった。
 当方も「パッションだ」といったあの美しいセンテンスが忘れられない。博士は、大震災、津波、原発事故という3重の被害を受けた日本人に限りない同情心を抱いている。その話し方で直ぐに聞き手に伝わってくる。
 英国原発専門家の中に博士のような人物がいたとは知らなかった。同博士が国際専門家査察団(12カ国から18人が参加)の団長として日本を訪問したということは、日本にとってこの上なくラッキーだった。
 国際専門家査察団がまとめた報告書は客観的な事実と査察結果が含まれていることは当然だが、その中には、「原発の安全性を向上させたい」という原発専門家たちのパッションも含まれているはずだ。福島原発関係者にとっても勇気つけられる内容も多いのではないだろうか。