ドイツやオーストリアでは移住者の社会統合を促進するためにドイツ語の習得を義務化し、移住希望者が滞在許可を習得するためには一定時間のドイツ語学習をクリアしなければならない。
 例えば、当方が住むウィーンでは10年以上、オーストリアに住みながらドイツ語を話せないトルコ系移住者が結構、多いが、それでもあまり支障がない。ウィーン市にはトルコ系社会が存在する。そこに行けば買物から食事まで全てトルコ語で用を済ませることができる。だから、ドイツ語を学ぶ必要性も出てこないというわけだ。
 一方、言語としてドイツ語が他の言語より少々、複雑だ、という事情もあるかもしれない。「トム・ソーヤの冒険」や「王子と乞食」などで有名な米国作家マーク・トウェイン(Mark Twain,1835-1910年)は「ドイツ語は改革しなければ、死語となってしまう」と主張し、ドイツ語の改革案を提示しているほどだ。
 「むかつくドイツ語」(The Awful German Language)というエッセイの中で、トウェインはドイツ語がそれを学ぶ外国人にとって如何にむかつく言語かを具体的な例を挙げて紹介している。例えば、独語の分離動詞や長い複合名詞を酷評。その一方、「全ての名詞を大文字で書くことはグット・アイデアだ」と評価する。そして「ドイツ語は改革が必要だ」と指摘し、3格の廃止、表現力に富む英語の導入、名詞の性別は神の創造に基づいて決定する、不必要に長い複合名詞や挿入句の廃止など、7項目の改革案を挙げている。ドイツ語を学んだ人ならば同感できる内容ではないだろうか。
 マーク・トウェインは「言語に長けた人間ならば英語は30時間でマスターできる。フランス語ならば30日間でOKだ。しかし、ドイツ語の場合、30年間が必要だ。ドイツ語が改革されなければ、死語の言語となるだろう。死者だけが(ドイツ語を学ぶ)十分な時間をもっているからだ」と皮肉を込めて警告を発している。
 トウェインの主張が正しいとすれば、ドイツやオーストリアに移住を希望する者はその前に30年間、“むかつくドイツ語”を学び続けなければならない。とすれば、両国に移住を希望する者はいなくなるのではないだろうか(実際は、年々、移住者は増えている)。