このコラム欄で一度、言及したが、ウィーンにはアフガニスタンから難民として移住した元裁判官がいる。その裁判官は現在、市内のレストランで皿洗いをして家族を養っている。「戦争が続く故郷では家族を育てることができない」というのが欧州に移住してきた主要理由だ。その元裁判官に母国の現状をどのように感じてきたかを知合いを通じて聞いた。
 「わが国では60〜70%の国民が文字を読めない。新聞も本も読めない国民で溢れているのだ。だから、一部の人間が国民を騙し、管理することは非常に容易いことだ。政治家が腐敗していても大多数の国民は分らない」という。
 アフガンでは政府高官・官僚たちの汚職、腐敗は日常茶飯事といわれ、対アフガン国際支援の多くが政府高官や官僚たちの懐に流れている、というショッキングな報告書が公表されたばかりだ。独週刊誌シュピーゲルも「2007年以来、30億ドル以上の現金がカブール国際空港から国外に流れていった」という記事を掲載している。
 先日会見した駐オーストリアのパレスチナ自治政府代表のズヒェイル・エルワゼル大使も同じ様なことを語っていた。当方が「何がアラブ諸国の国民を民主化に目覚めさせ、犠牲をも厭わない反政府運動を引き起こさせているのか」と聞いた時、その代表は「中東のアラブ諸国では独裁政治が久しく続き、国民経済は一部の支配階級だけにその恩恵を与え、大多数の国民は貧困に陥り、失業し、未来への展望もない。特に、若いアラブ人たちは飢え、渇き切っている。彼らは西欧社会では当然の民主主義、公平な選挙システム、言論の自由、そして人権尊重する社会に飢えているのだ。その飢えがこれ以上忍耐できない点まできたのだ」という。教育を受ける機会も働く場所も無く、未来への展望もない日々だったのだ。
 また、パレスチナ自治政府内でも腐敗が絶えないという。富の独占だけではなく、教育も一部のエリート層だけが享受し、大多数は初等教育もままならない有様だ。
 独裁政権が崩壊したチュニジアから数千人の若者たちが今月9日以降、欧州での仕事を求めて地中海のペラージェ諸島にあるイタリアの最南端の島ランべドゥーザ(Lampedusa)に殺到したばかりだ。
 多くの難民が自国で教育を受け、雇用の場を開拓できるようになれば、他国へ生活の糧を求めて漂流する必要はない。国の建設にも参画できる。よく言われることだが、「国の再生は国民教育の向上にかかっている」と痛感せざるを得ない。