北朝鮮では、チュニジア、エジプト、リビアなど北アフリカ・中東アラブ諸国で進行中の国民による民主化運動は報じられていない。韓国がビラなどをまき、北の国民にそれらの情報を知らせようとしているため、北側は国民の監視を強めている。
 ところで、海外駐在する北外交官、ビジネスマンらは当然のことながらエジプトの政変もリビアの動乱も現地のメデイアなどを通じて知っている。目を閉じ、耳をふさいで生活するわけにはいかないから、彼らはわれわれと同様、中東アラブ諸国の独裁者の運命を知っている。情報が閉鎖された北で生活する国民とは明らかに異なる。
 それでは、海外駐在の北外交官やビジネスマンは現在、どのような思いを抱きながら生活しているのだろうか。その辺のことを知りたいと思い、知人の北外交官にそれとはなく聞いてみた。以下はその会話の概要だ。

 ――エジプトやリビアの情勢は北では報道されていない、ということは事実か。
 「国営メディアは報道していないね」

 ――中朝国境に近い北朝鮮新義州で18日、住民数百人と当局が衝突したと報じられています。
 「韓国のメディアだろう。しかし、その記事が事実かどうかは判断できない」

 ――エジプトやリビアのような国民の反政府デモは北でも起きる可能性があるのではないか。
 「理論的にいえば、どの国でも反政府デモは発生する可能性がある。ただし、わが国では考えられないことだ」

 ――食糧、電気不足で国民の不満は高まってきているのではないか。
 「国民の生活が厳しいことは事実だが、反政府デモは考えられない」

 ――チュニジアでは若い青年が自殺して政府に抗議しました。それが契機となって反政府デモが発生し、独裁者の追放につながったわけです。
 「わが国のシステムは中東アラブ諸国とは違う」

 ――国の統制がもっと厳しい、という意味ですか。
 「まあね」

 ――北朝鮮は過去、エジプトやリビアなどのアラブ諸国と良好な関係を構築してきたが、それらの独裁政権の崩壊は北にとって経済的ダメージはないか。北にとってどのアラブ諸国の崩壊が最もダメージがあるか。
 「どのアラブ諸国の崩壊がわが国にとってダメージが大きいかといった質問は意味がない。とにかく、わが国は目下、中東アラブ諸国の動向を注視しているという段階だ」

 ――ところで、北朝鮮は第3回目の核実験を準備しているといわれている。
 「どうして外部の人間や国が『わが国の核実権が近い』と予想できるのかね。自分は分らない」

 ――第1、第2の核実験後、国際社会の対北制裁は強化された。第3の核実験は北の経済復興にとってマイナスではないか。
 「対外貿易など経済関係からみれば、いかなる軍事行動もプラスとはいえないね」

 ――金正日労働党総書記はお元気ですか。
 「国営TV放送を見る限り、健康で活躍している」

 ――金総書記は軍部も主管しているか。
 「総書記は軍部を完全に掌握している」


 読者の中には「当方氏はどのようにして北外交官と接触し、話しているのか」と不信を抱かれる人がいるかもしれない。海外駐在の北外交官が日本人ジャーナリストと頻繁に会い、会話することは不可能だ、という疑問だ。答えは「その不信はもっともだ。北外交官がジャーナリストと接触し、それが当局に発覚した場合、生命にもかかわる危険が出てくる」からだ。
 そのため、当方はその知人との会談内容を紹介する場合、名前はもちろんのこと、会話内容も必要に応じて省略したり、一部訂正していることを報告しておきたい。
 ちなみに、昨年、アジア地域の北外交官や欧州経済担当幹部が韓国に亡命したが、海外駐在の北外交官、ビジネスマンたちは現在、心の落ち着かない日々を過ごしている。