英国のトニー・ブレア元首相は「一国の信仰(宗教)はその国の国内総生産(GDP)と同様、重要だ」と述べた。バチカン日刊紙オッセルパトーレ・ロマーノは22日付で、メキシコのモンテレイ市の技術研究所で語った元首相の講演内容を伝えた。
 ブレア氏は「政治と経済の関連を理解する上で宗教的要素は重要だ」と指摘、実例として中東諸国を挙げ、「そこでは宗教が政治・社会改革で決定的な影響を与えている」と主張、その上で「欧州でもユダヤ教・キリスト教文化は大きな比重を占めている」と強調している。
 ブレア氏の発言内容を読んだ時、内村鑑三の言葉を思い出した。内村はその著書「代表的日本人」の中で「人間の最大関心事は宗教であります。正確に言うならば、宗教のない人間は考えられません」と語っているのだ。
 当方は内村の自信溢れる言葉に驚きを感じたが、「一国の宗教(信仰)がGDPと同様、重要だ」と指摘し、「宗教が文化の鍵を握っている」と強調したブレア発言にも新鮮な感動を覚えた。
 ところで、欧州連合(EU)外相理事会は21日、ブリュッセルで開催され、激動するリビア情勢とその対応について協議された。理事会の内容はメディアで既に報じられたが、メディアが報じなかった別の重要な議案があった。「世界各地で迫害されるキリスト者の『信仰の自由』を擁護する共同声明文」の採決問題だ。
 同協議は3週間前にも話し合われたが、草案に「迫害されるキリスト信者の信仰の自由」を明記するか、「宗教の自由の擁護」といった表現に留めるかで加盟国間で意見がまとまらなかった。しかし、今回、「キリスト信者の信仰の自由擁護」も記述された声明文が採択されたのだ。欧州がキリスト教文化に属し、その「信仰の自由」を擁護することが義務であると内外に改めて表明したわけだ。その意味で、ブレア発言に通じるものがある。
 さて、日本はどうだろうか。政治家が「信仰の自由」擁護のために立ち上がった、ということは久しく聞かない。「宗教は個人の生活領域に属するもので、国家はそれに干渉しない」という基本方針があるからだろう。
 しかし、欧州諸国でも「宗教と政治」は分離されている。それでも、「宗教の自由」の重要性は認識されている。だから、外相理事会で「信仰の自由」を擁護する共同声明文が採択されたのだ。
 「一国の信仰はそのGDPと同様、重要だ」というブレア発言を日本の政治家から聞くことができる日はくるだろうか。

【短信】

カダフィ大佐の化学兵器使用と暗殺計画

 西側情報機関筋によると、米国は現在、リビアのカダフィ大佐が反体制グループに追い込まれた場合、起死回生のために化学兵器を使用する可能性があると深刻に懸念している。
 リビアは2003年12月、米英両国との間で大量破壊兵器(WMD)の全廃で合意したが、化学兵器の破棄に関してはこれまでその合意を履行していないという。そのため、米国は、カダフィ大佐が反体制派の攻撃を受け守勢を余儀なくされた場合、化学兵器を使用する危険性があると予想している。
 ちなみに、過去、イラクのフセイン大統領が国内のクルド人に対して化学兵器を使用して大量虐殺を行ったことがある。
 西側情報機関筋は「化学兵器の使用を防止するため、米国は精鋭の特殊部隊を送り、カダフィ大佐を暗殺するシナリオも検討している」という。