
以下は一問一答の要旨だ。
(写真はパレスチナ代表部提供)
――米オバマ政権は18日、パレスチナ領域でイスラエルの入植活動の即停止を要求した国連安保理決議案に拒否権を行使した。
「そのニュースが流れると、パレスチナ人社会で大きな失望が飛び出した。パレスチナ人はオバマ大統領の中東和平政策に大きな期待と信頼を置いてきた。だから、その失望も深い。安保理決議案の否決が伝わった日、パレスチナでデモが起き、イスラエルで国民たちが踊り出した。米国の拒否権発動はパレスチナ人にとって痛みとして今後も残るだろう。米国の中東政策は決して中立ではなく、イスラエルを支持していることが端的に示されたからだ。繰り返すが、イスラエルは入植政策を即中止すべきだ。さもなければ、パレスチナの和平プロセスは死んでしまう。オバマ政権はイスラエルの入植政策を中止させるか、和平プロセスを中断するかの二者択一を迫られているのだ。両者にいい顔をすることはできない」
――テーマを中東アラブ諸国で拡大してきた民主化運動に移す。チュニジア、エジプト、そして現在、リビアで国民の民主化運動が展開している。何がアラブ諸国の国民を民主化に目覚めさせ、犠牲をも厭わない反政府運動を引き起こさせているのか。
「中東のアラブ諸国では独裁政治が久しく続き、国民経済は一部の支配階級だけにその恩恵を与え、大多数の国民は貧困に陥り、失業し、未来への展望もない日々を送ってきた。特に、若いアラブ人たちは飢え、渇き切っている。彼らは西欧社会では当然の民主主義、公平な選挙システム、言論の自由、そして人権尊重する社会に飢えているのだ。その飢えがこれ以上忍耐できない点まできたのだ」
――アラブの盟主エジプトではムバラク政権が崩壊した。近い将来、民主的な選挙が実施される予定だが、イスラム根本主義組織「ムスリム同胞団」が政党として旗揚げしたばかりだ。欧米諸国では「ムスリム同胞団」が政権を掌握するのではないかと懸念している。
「『ムスリム同砲団』が政党として登録したことはいいことだ。同胞団が次期選挙で第一党となるかどうかはエジプト国民が決定することで、われわれは干渉できない。『ムスリム同胞団』がイスラム過激派グループとは受け取っていない」
――「ムスリム同胞団」はパレスチナ過激派勢力「ハマス」の母体だ。ハマスが今後、エジプトの同胞団の言動に鼓舞されて、その活動を活発化することが予想される。
「われわれは今年7月、議会選挙を行う。ハマスも政党として参加し、合法的な政治システムに統合すべきだ。パレスチナ自治政府とハマスの間ではさまざまな対立があることは事実だが、ハマスが合法的な政党として活動する限り、われわれは話し合う用意がある」
――日本を含む国際社会への要望は。
「特に、日本政府に対しては感謝している。今後は財政支援だけではなく、世界の主要国として政治的貢献をも期待している。現在、パレスチナ国家の認知、1967年の国境線の尊重、等を主張している。いずれにしても、われわれは国連総会に主権国家承認に関する決議案の提出を検討中だ」
【エルワゼル大使の略歴】1947年、パレスチナのアルラムラハ(Alramlah)生まれ。1965年にガザ地区のファタハ運動に参加。80年から95年までパレスチナ民族評議会(PNC)メンバー、95年から2005年までヘルシンキのパレスチナ総使節団責任者などを歴任した後、05年から駐オーストリアのパレスチナ代表部責任者(大使)兼在ウィーン国際機関代表責任者